レビュー

2021年宇宙の旅≪前編≫ 火星、小惑星、ハッブル後継機…科学の話題が目白押し

2021.01.18

草下健夫 / サイエンスポータル編集部

 小惑星探査機「はやぶさ2」の帰還は昨年末の大きな話題となった。この盛り上がりを引き継ぐかのように、今年も太陽系探査機を中心に、宇宙科学をめぐるさまざまな動きが見逃せない。各国の火星や小惑星探査機の到着や出発が計画されているほか、有名な「ハッブル宇宙望遠鏡」の後継機となる大型望遠鏡の打ち上げ、月探査と目白押しだ。現時点で年内実現の見込みや可能性があるとみられる、主なものを紹介する。

火星に相次ぎ到着、ヘリ飛行実験も

 2月、3つの探査機がこぞって火星に到着する。アラブ首長国連邦(UAE)の周回機「ホープ」は現地(UAE)時間9日に軌道投入、米国の探査車「パーシビアランス(不屈、忍耐)」は米東部時間18日に着陸する予定だ。周回機や探査車などからなる中国の「天問1号」も同月に到着する。

 火星探査機は、火星と地球が互いに接近する約2年ごとに、飛行距離が短くなる打ち上げの好機を迎える。この事情から、日本のH2Aロケットを採用したホープをはじめ、3機はいずれも昨年7月に地球を出発している。

パーシビアランスの火星着陸の想像図。「スカイクレーン」(上)がゆっくり降下し、吊り下げた探査車を地表に降ろす(NASA提供)
パーシビアランスの火星着陸の想像図。「スカイクレーン」(上)がゆっくり降下し、吊り下げた探査車を地表に降ろす(NASA提供)

 パーシビアランスは現行の探査車「キュリオシティー」の後継機。かつて湖だったとされるクレーターに着陸して生命が存在した可能性を探るほか、地質調査や、大気の主成分である二酸化炭素から酸素を作る実験などを進める。他の惑星での初の航空機となる、希薄な大気で飛ぶヘリコプターの実験も行う。

 米航空宇宙局(NASA)はパーシビアランスで火星の試料を採取して容器に入れておき、これを将来の別の探査機で回収し2030年代初頭に地球に運ぶことも検討中だ。欧州と共同で、試料を火星表面から上空の回収機へ打ち上げる方法などを検討している。なお、日本も火星の衛星「フォボス」の試料を採取し、先行して29年に地球に回収する計画を進めている。こちらは24年打ち上げ予定だ。

 ホープはアラブ諸国初の惑星探査機で、大気や気候の詳細な理解を目指す。中国は昨年12月、月探査機「嫦娥(じょうが)5号」で同国初の天体試料回収を成功させたばかり。探査技術を急速に高める同国が、惑星到達の第一歩となる天問1号でも成果を上げるか注目される。

はやぶさ2試料の調査が本格化

 米国版はやぶさともいわれる探査機「オシリス・レックス」が小惑星「ベンヌ」を3月に出発する。はやぶさ2に続き昨年10月、試料採取に成功しており、地球に回収できれば小惑星では2番目の成功国となる。地球帰還は2023年9月。はやぶさ2と同様、試料を分析すれば、太陽系形成や生命の起源の謎を解く手がかりが得られると期待されている。

 一方、昨年12月に「リュウグウ」の試料が入ったカプセルを地球に届けたはやぶさ2は、2031年の到着を目指して次の小惑星「1998KY26」へと向かっている。今月5日には機体を加速するイオンエンジン3基の運転を開始し、航行を本格化した。

はやぶさ2が採取した試料が入った容器の一つ。地下の試料採取を目指した2回目の着地のもので、開封したところ大小多数の試料が確認できた(JAXA提供)
はやぶさ2が採取した試料が入った容器の一つ。地下の試料採取を目指した2回目の着地のもので、開封したところ大小多数の試料が確認できた(JAXA提供)

 はやぶさ2が持ち帰った試料の調査が本格化する。計画で想定した最低100ミリグラムを大幅に上回る約5.4グラムの回収に成功。現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙科学研究所(相模原市)で管理され、細かく分類する前の基本的な観察と記録作業が6月頃まで続く。さらに今年いっぱいかけ、粒ごとに調べて記録。その後、研究計画の公募などを経て国内外の研究者に渡されるほか、オシリス・レックスとの相互協力協定に基づきNASAにも提供される。一部は今年6月頃、はやぶさ2チームが先行して分析を開始する。

 宇宙科学では、はやぶさ2をはじめとする探査機の動静に注目が集まりがちだ。一方、探査機が地球に届けた観測データはその後、年月をかけて研究者の手で分析され、論文などの形で科学の知見となって積み重なっていく。半世紀前に米アポロ計画で採取した岩石に、今も世界の研究者が向き合っている。こうした地道な取り組みにも、ぜひ思いを馳せたい。

小惑星へ新たな旅立ちも

小惑星探査機「ルーシー」の想像図(NASA提供)
小惑星探査機「ルーシー」の想像図(NASA提供)

 米国の新たな小惑星探査機「ルーシー」が10月に地球を発つ。木星の公転軌道上に集まる6000個超の「トロヤ群」と呼ばれる小天体のうち、7つに順繰りに接近して探査する計画だ。それに先立ち、火星と木星の軌道の間にある小惑星も探査する。打ち上げから12年の長旅により、タイプの異なる星々を調べて太陽系の成り立ちの謎に迫る。はやぶさ2のような試料採取や地球帰還はしない。

 さらに米国の1機が小惑星に向かうが、こちらの目的は科学ではなく、天体が地球に衝突する被害を抑える「プラネタリーディフェンス」の実験だ。計画名は「ダート(Double Asteroid Redirection Test=二重小惑星方向転換試験)」。ペアを組む星の片方に機体を意図的にぶつけ、衝撃で軌道をずらす技術を検証する。今後、地球に衝突して被害が大きくなりそうな天体が見つかった場合に、機体をぶつけて軌道を変え、人類の危機を回避する方法を探る。7月22日にも機体を打ち上げ、来年9月に衝突させる。

 目標にペアの星を選んだのには理由がある。機体衝突を受けて一方の星の軌道がずれると、それが周回する星と合わせた明るさの変化の規則性が変わると考えられる。それを地球から観測し、衝突の影響を判断するという。人類は未知の天体が地球を襲うリスクに備え、技術を磨いておく必要がありそうだ。今回の実験台となる星には衝突の心配がない。

初期の宇宙見つめる新たな目

 ハッブル宇宙望遠鏡の後継機として米欧とカナダが共同開発している「ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡」の打ち上げは、10月31日に計画されている。

開発中のジェームズウェッブ宇宙望遠鏡。昨年12月には各種の最終試験が行われた(NASA提供)
開発中のジェームズウェッブ宇宙望遠鏡。昨年12月には各種の最終試験が行われた(NASA提供)

 主に可視光を使っているハッブルに対し、この望遠鏡は赤外線に特化している。観測を狙う宇宙初期の光は遠方から長い年月をかけて届くが、その間に波長が伸び、可視光が赤外線に変化してしまうためだ。138億年前の宇宙誕生からわずか2億年後の銀河や星々を観測し、宇宙の歴史解明に役立てるという。太陽系外惑星を観測し、生命が存在する可能性を探る研究にも期待が集まっている。

 ただ複雑な構造や開発ミスの影響で開発費が大幅に膨らんでおり、厳しい批判にさらされてきた。打ち上げは2007年の予定から幾度となく延期されてきた。昨年7月にはコロナ禍と技術的な課題を理由に、またも、今年3月から7カ月の延期が決まっている。

伝統の「ルナ」で再び月へ

 ロシアのイタル・タス通信は、同国の宇宙開発公社「ロスコスモス」の代表者が、年内に打ち上げる月探査機「ルナ25号」に言及した、とする記事を元日に公開した。実現すれば、月の試料を地球に回収した1976年の旧ソ連の無人機「ルナ24号」以来、同国にとって実に45年ぶりの月探査となる。

 ロシア科学アカデミー宇宙研究所や欧州宇宙機関(ESA)などの資料によると、月の極域を主な探査対象とし、着陸機であるルナ25号の2年後に周回機の26号を、その翌年には着陸機の27号を計画。その後の28号では試料の地球回収を目指すとされる。欧州は搭載する観測機器や誘導システムで協力するほか、27号で試料採取装置などの提供を検討しているという。

 米国主導の国際協力で月を探査、開発する大規模な有人計画が動いている。月の極域は近年、水の存在が有望視されており、将来の資源利用を視野に各国が注目。こうした中、ロシアは1950年代からのルナの名称を引き継いで臨み、乗り遅れまいとする強い意志がうかがえる。宇宙大国の同国だが、華々しい太陽系探査は1980年代半ばの金星・ハレー彗星探査機まで。その後は火星や火星衛星の探査に挑んだものの、2016年に欧州と実現した火星周回機以外は失敗が続いている。再始動を果たせるか、世界が注視している。

インド、そして日本も月に熱視線

 インドは、着陸機と探査車などからなる「チャンドラヤーン3」の年内打ち上げを目指しているとされる。2019年に旧ソ連、米国、中国に次ぐ4カ国目の月面着陸を目指したものの失敗した「チャンドラヤーン2」(周回機は成功)以来の挑戦となる。このほか、年内実現を目指す民間の月面着陸計画が世界に複数存在する。

超小型探査機「オモテナシ」(JAXA提供)
超小型探査機「オモテナシ」(JAXA提供)

 まだ大きな話題になってはいないが実は今年、日本の探査機が月面に到達するかもしれない。その名は「オモテナシ」。近年どこかで聞いた言葉だが、「Outstanding MOon exploration TEchnologies demonstrated by NAno Semi-Hard Impactor」の頭文字に由来するという。現時点で年内に計画されている米国の大型ロケット「SLS」1号機打ち上げの際、宇宙船の無人試験機と相乗りする13の超小型探査機の1つとして、JAXAのこの提案が選ばれている。東京大学や日本大学による軌道制御技術実証機も相乗りする。

 オモテナシは小包ほどの大きさの約14キロの機体で、世界最小の探査機による月着陸を目指す。ただし仕様上の制約からアポロのような軟着陸はできず、秒速数十メートルで衝突する「セミハードランディング」となる。月面からはおもてなしならぬ、手痛い歓迎を受けそうだ。

関連記事

ページトップへ