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科学技術の失速と復活の処方箋を議論 政策研究大学院大がシンポで

2020.01.10

池辺豊 / サイエンスポータル編集部

 政策研究大学院大学は2019年12月26日、東京・六本木の同大で科学技術政策研究シンポジウム「我が国科学技術の失速の原因と復活の処方箋」を開いた。行政体制の弱体化や科学技術システムの時代遅れを失速の主な原因に挙げ、若手研究者の活性化などが復活のために不可欠と論じられた。

電子産業に「昔日の面影なし」

 開会の挨拶に続き、今村努コーディネーター(元文部科学省科学技術政策研究所長)が論点整理を行った。失速の指標である研究力の低下について、科学技術論文数は日本の最盛期だった2004年の国際順位は2位だったが、現在は4位に甘んじており、論文の質を示す「トップ10」は4位から9位に後退。大学ランキングで日本の大学はトップ100の下位に2校がいるだけと指摘した。

今村努コーディネーター
今村努コーディネーター

 1980年代に世界をリードした日本の電子産業について、今村氏は「衰退して昔日の面影はない」と断じ、「代わってITが前面に出てきたが、産業界は主導的な立場にない」との見方を示した。その上で「戦後の日本は、科学技術で先進国に追い着くことが目標だった。1990年代に経済先進国になった段階で、科学技術による経済発展について国民全体で価値観を共有できなくなり、明確な目標が提示されないまま今に至っている」と失速の背景を説いた。

 失速の直接の原因としては、(1) 2000年頃の行政改革で「小さな政府」を志向したために行政体制が弱体化した、(2) 少子高齢化、中国の台頭、GAFAなど巨大産業の出現など時代の変化に科学技術システムが対応できなくなった、(3) 各国が科学技術予算を増やしたのに、日本はほとんど横ばいだった、(4) 研究者の任期制導入、大学の法人化、競争的資金の強化、「選択と集中」などの副作用——などを掲げた。

過去にないほど高まる閉塞感

 これに対して、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の橋本和仁議員(物質・材料研究機構理事長)は「7年前からずっと務めているCSTIの議員として、胸にグサリと刺さる。力足らずな点はお詫びしたいが、ご指摘すべてに意見がある。海外から『日本のシステムは素晴らしい』と言われたりもするので、うまくいかなかったことばかりを取り上げるのはあまりに自虐的だ」と反論した。

橋本和仁物質・材料研究機構理事長
橋本和仁物質・材料研究機構理事長

 橋本氏は大学の改革は着実に進んでいるが、経営陣が交代すると現場にしわ寄せが行きやすく、閉塞感が過去にないほど高まっていると強調。具体的には若手研究者が (1) 将来のキャリアパスへの不安、(2) 研究費配分に対する不公平感、(3) 研究以外に時間を取られる不満——を持っていると述べた。

 これら3つの問題の解決策として橋本氏は「問題を徹底分析しており、若手研究者を呼んで1年間議論を重ねている。1月半ばまでに処方箋を盛り込んだCSTIの報告書を作り、月末には官邸に持ち込んで、最終的には閣議決定を目指したい。理想論を語るだけではなく、具体的な政策にインプリメンテーション(実行)しないと何も変わらない」と語った。

中央官庁だって若手は不安

 科学技術振興機構の中村道治顧問(元日立製作所副社長)は「企業が中長期的な視点の元に経営するのは日本の強みで、欧米からうらやましがられた。(我が国の科学技術は)ほかの理由でうまくいかなくなったのに、中長期的な研究を企業がやるのは悪と思われたのは非常に残念」と話した。また、大学改革は大学人に任せ、企業や政府は資金面で支援することが重要と主張。関連分野を所掌する「科学技術情報省」の設立を求めた。

 総合討論で、科学技術振興機構の有本建男上席フェロー(政策研究大学院大学客員教授)は「今日は役所の審議会や部会ではできないことを議論してきた。こういうのを持続しないといけない。日本は制度のインプリメンテーションが急激に下手になってきた。中央官庁の中堅若手だって将来に不安があり、不公平感が強く、考える時間もないからだ。これを改善することで、インプリメンテーションがきちっとしたものになる」と変革を促した。

 若手の意識について、岡山大学の狩野光伸副理事・教授(外務大臣次席科学技術顧問)は「世代によって『当たり前』の意味が違う。高度経済成長期を知らない若手はバブル崩壊後の社会が当たり前になっていて、『なぜ変えなければいけないの』と多くが思っている。いろいろな経験を持った方と一緒にやっていこうと話をすることが大事」と語った。

シンポジウムの総合討論
シンポジウムの総合討論

 2021年から5年間を見据えた第6期科学技術基本計画の策定作業が進んでおり、今回のシンポジウムはそれに資するものだ。若手研究者をどう処遇するかは喫緊の課題であり、今後も活発な論戦、そして政策へのインプリメンテーションに期待したい。

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