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人文・社会科学系学部、学会の反論は?

2015.12.24

小岩井忠道

 日本私立大学連盟(会長:清家篤〈せいけ あつし〉慶應義塾長)のインテリジェンスセンター政策部門会議が、「これからの私立大学のあり方に関する提言」を公表した。半年前に国立大学学長宛てに出された下村博文(しもむら はくぶん)文部科学相(当時)の通知「国立大学法人等の組織および業務全般の見直しについて」が、国立大学にとどまらず私立大学にも衝撃を与えていることを示している。

 6月8日付文部科学相通知の中で、波紋が広がっている記述は次の通りだ。

 「教員養成系学部・大学院、人文・社会科学系学部・大学院については、18歳人口の減少や人材需要、教育研究水準の確保、国立大学としての役割等を踏まえた組織見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めることとする」

 これに対し日本学術会議はすぐに、7月23日付の幹事会名で反論している。「大学は社会の知的な豊かさを支え、経済・社会・文化的活動を含め、より広く社会を担う豊富な人材を送り出すという基本的な役割を失うことになりかねない」、「教育における人文・社会科学の軽視は、大学教育全体を底の浅いものにしかねないことに注意しなければならない」などと。

 産業界もまた、経団連提言(9月9日付)という形で、異論を唱えている。「今回の通知は即戦力を有する人材を求める産業界の意向を受けたものであるとの見方があるが、産業界の求める人材像は、その対極にある」と明言し、望ましい学生像を次のように提示した。「地球的規模の課題を分野横断型の発想で解決できる人材が求められていることから、理工系専攻であっても、人文・社会科学を含む幅広い分野の科目を学ぶことや、人文・社会科学系専攻であっても、先端技術に深い関心を持ち、理数系の基礎的知識を身につけることも必要である」

 今回、公表された日本私立大学連盟の提言もまた、「個々の学生が論理性と主体性と広い視野を身につけ、広い視野から時代の変化にも対応できるよう教育をする」ことが私立大学の使命だとして、文部科学相通知に反論している。ただし、私立大学が「それぞれ固有の建学の精神と教育理念を有し、これらに基づく高等教育を提供し社会に貢献してきた」一方で、「次第に画一化への道を歩んできたことは否めない」と認めているのが目を引く。

 さらに、各大学への厳しい注文が続く。「この状況を転換しない限り、各大学の価値と多様性は失われ、私立大学全体が時代のダイナミックな変動に対応できなくなる」と危機感をあらわにし、「建学の理念、役割、取り組みなどを発信し、国や社会の理解を得ることに、さらなる力を注ぐ必要がある」と。

 5カ月前に出された日本学術会議の幹事会声明にも、似たような記述があった。「変化が著しい現代社会の中で人文・社会科学系の学部がどのような人材を養成しようとしているのか、学術全体に対して人文・社会科学分野の学問がどのような役割を果たし得るのかについて、これまで社会に対して十分に説明してこなかったという面があることも否定できない」と指摘している。

 加えて「社会の変化と要請を踏まえつつ、自らの内部における対話、自然科学者との対話、社会の各方面との対話を通じて、これらの点についての考究を深め、それを教育と研究の質的な向上に反映するための一層の努力が求められる」とも。

 理工系の研究者は、人文・社会科学系より比較的多くの研究費を支給される代わりに、投資効率がしばしばやり玉に挙げられる。人文・社会科学系で論文の数や被引用率から国際競争力が問題にされることは少ない。そろそろ人文・社会科学系の学部や学会が、文部科学相通知をよい機会と考え、人文・社会科学の役割などについて社会に向かってもっと発信すべきではないだろうか。上部団体や産業界に反論を任せておかず。

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