レビュー

研究者コミュニティへの影響大 30年ぶりの科研費改革

2015.10.27

中村直樹

 文部科学省の科学技術・学術審議会学術分科会は9月29日、科学研究費補助金についての改革の実施方針を了承した。第5期科学技術基本計画期間中、審査システムの見直し、研究種目・枠組みの見直し、柔軟かつ適正な研究費使用の促進という3本柱での下、科研費改革を進めていくというものだ。

 今回の改革では、30年ぶりに審査単位・区分の大幅な見直しが行われる。現行の審査体系は1968年に原型が作られたもので、細目ごとに審査を実施し、専門性を重視した審査体系が構築されたため、結果として、細目(学問分野)が細分化していった。現在、特別推進研究や新学術領域研究といった大型の研究種目では大きな分野区分(系)ごとに審査が行われているが、基盤研究、挑戦的萌芽研究、若手研究といった中規模・小規模な研究種目については321?432の細目(学問分野)ごとに審査が行われている。

 科研費は日本における基礎研究のベースをなすものであるため、科研費の審査の細分化と日本の学問領域の細分化は相乗的に進んできた。しかし、学問が進展してくると、細分化して深く追求するだけでは新たな進展が難しくなってきた。そのため、他の学問領域との連携によってブレークスルーを生み出そうという動きが世界の潮流となっている。

 そうした背景もあり、今回の改革では、321?432の細目(学問分野)ごとに審査していた中規模・小規模な研究種目について審査区分を大くくり化する。具体的には、基盤研究Sは大区分で審査、基盤研究Aと若手研究Aは中区分で、比較的少額の基盤研究B・C、挑戦的萌芽研究、若手研究Bは小区分で審査を行う。中区分は70程度の区分になると想定されているが、小区分がどれほど大くくり化されるかはまだ検討中だという。

 一見するとただ分野融合を進めるだけの見直しにも見えるが、実は日本の研究者コミュニティに大きな影響を与える改革である。

 現在の科研費の各分野における配分額は、分化細目ごとの応募数によって決まっている。つまり、ある分野の研究者が多くなり、科研費の申請が増えれば、自然とその分野への研究費の配分額も増えてくる。学問の進展に柔軟に対応していくシステムといえる。しかし、逆に言えば、特定の研究者コミュニティが一定の研究費を継続的に確保し続けるため、その分野のボス支配が強まるシステムであるといえる。結果として研究力が高まるケースもあるため、必ずしもボス支配自体が悪いわけではないが、分野の固定化につながってしまうため、新たな分野が生まれにくい環境にはあったといえるだろう。

 では今回の審査区分の見直しで何が起こるのか。

 これまで321?432の細かい分野の中で理解を得られるような申請書の書き方をしていれば評価されて研究費を獲得できていたものが、隣の分野の人にも理解できるような書き方をしなければ評価されないということになる。つまり、これまで分野内での競争だったものが、分野間での競争に変わるということになる。場合によっては、特定分野の科研費が30件から10件あるいはもっと少なくなるということも考えられる。逆に、件数が増える分野もあるだろう。

 そうなると、特定分野でのボス支配の力は相対的に弱まり、そのことが約1,700もある学協会の求心力をも低下させることになる。結果として、会員数が減っている各学協会の再編にもつながる可能性がある。

 科研費改革が日本の研究者コミュニティに与える影響は、非常に大きい。

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