レビュー

日本学術会議に期待される役割

2015.05.20

小岩井忠道

 日本学術会議にとって今年は節目の年になる。2005年に会員の選出方法など法改正を伴う改革が行われた際「10年以内に新たな体制を整備してあり方を再検討する」ことを義務づけられていたからだ。

 3月後半に相次いで公表された内閣府の「日本学術会議の新たな展望を考える有識者会議」による報告「日本学術会議の今後の展望について」と、日本学術会議が依頼した外部評価委員による「日本学術会議第22期3年目(2013 年 10 月〜14年9月)の活動状況に関する評価」は、日本学術会議がまだ多くの課題を抱えていることを示している。

 「日本学術会議の新たな展望を考える有識者会議」の報告は全体として、10年前の改革が目指した方向をさらに強化することを求めているように読める。「社会的な課題に対し、わが国の学術の総合力を発揮した俯瞰(ふかん)的・学際的な見解を提示する『社会の知の源泉』としての役割」を期待しており、日本学術会議にとって何の違和感も不都合もないと思われる。現状について「政府における政策形成と日本学術会議の提言などとが、必ずしも相互補完的にかみ合っているとはいえないのではないか」との指摘が会議で出たという記述が、やや厳しい指摘と言えるくらいだろうか。

 日本学術会議の外部評価委員による評価は、だいぶ違う。「日本学術会議が社会から求められている役割を十分に果たし切れているか、については疑問が残る」と言い切っている。有識者会議が「増えている」と評価している「提言等」についても、「多くはその分野の専門家以外の者には、読んでも意義がすぐ理解できないような内容になっている」と手厳しい。

 さらに内容についても「今期の多くの報告書にみられるようなそれぞれの学問分野に特化した提言等は、各学会において行えばよいのであり、日本学術会議は、異なる分野を統合した俯瞰的な視点に立った提言等を出すことに活動の重点を置き、そうした活動を通じて、科学者コミュニティにおいて、リーダーシップを発揮するべきである。そのためには俯瞰的学問論が不可欠である」とこれまた厳しい。

 日本学術会議の大西隆会長は、4月22日に公表したメッセージの中で「分野横断的な議論の機会を増やし、社会から真に学術的知見が求められている課題に対して時宜を得た提言等を発信していけるよう、一層力を尽くしていきたい」と外部評価に答えている。

 これらの議論に欠けているものがないだろうか。資金の話だ。
10年前の改革から間もない2006年10月に日本学術会議会長を黒川清氏から引き継いだ金澤一郎氏は、09年1月に当サイトに掲載されたインタビュー記事の中で次のように語っている。

 「日本学術会議の年間予算は全米科学アカデミーより2桁少ないと聞いてショックを受けた。今さまざまな審議会が果たしている役割は、学術会議が引き受けるのが本来の姿だとは思う。だが、すべて学術会議にやってほしい、そのための予算も付ける、と今言われても対応できないだろう」

 こうした状況は、あまり変わっていないように見える。全米科学アカデミーは、どのように運営されているのか。11年暮れに来日し、日本学術会議と科学技術振興機構主催のシンポジウムで講演した全米科学アカデミーのスタッフによると、「1年に200〜300もの報告を出しているが、ほとんどが政府からの要請に応じたものだ。調査研究には年間6,000人以上のトップレベルの科学者、技術者、医師が参加している」という。調査研究の実費は政府が負担、科学者たちに謝礼は支払われない。科学者たちは、科学アカデミーの調査研究に参加することは名誉であり、公への奉仕、と考えているそうだ。

 日本学術会議に期待される役割を十分に果たしてもらうには、まず政府が日本学術会議に対する審議・調査研究の依頼を増やすことが必要、ということだろうか。

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