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高レベル放射性廃棄物の暫定保管を学術会議再び提言

2015.04.30

小岩井忠道

 高レベル放射性廃棄物を50年間、地上で監視可能な状態の「暫定保管」とし、除熱方式は乾式(空冷)が望ましいとする提言を、「日本学術会議高レベル放射性廃棄物の処分に関するフォローアップ検討委員会」(委員長 今田高俊 / いまだ たかとし・東京工業大学名誉教授)がまとめ、28日公表した。

 日本学術会議は、今田氏が同じく委員長を務めた「高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会」の2012 年9月に原子力委員長に宛てた回答という形で「暫定保管」を提言している。しかし、その後、政府が示した方針に「暫定保管」の理念や用語は示されていない。今回の提言は、「暫定保管」のより明確な姿を示すことで、あらためて政府と国民に対し、高レベル放射性廃棄物の処分問題に真正面から取り組む必要を訴えた。

 提言は、使用済み燃料を再処理した後に出る高レベル放射性廃棄物と、使用済み燃料をそのまま処分するいずれのケースでも、「日本国内で保管・処分せざるを得ない」と言い切っている。「高レベル放射性廃棄物の国境を越える移動は、『使用済燃料管理及び放射性廃棄物管理の安全に関する条約』で規制されていて、放射性廃棄物の管理に関する能力がある受け入れ国の同意があって初めて可能となる。核のごみの処分では、どこの国も困難を抱えているのが現状であり、受け入れ国の同意を得ることは不可能に近い」という理由からだ。

 高レベル廃棄物の最終処分法としては、地下300メートルより深い地下に埋め、人間の活動範囲から完全に隔離する方法が最有力とされている。しかし、2011年3月の福島第一原発事故以前は、全くといってよいほど最終処分地の選定作業は行われず、事故後も具体的な進展があるように見えない。示された方針と実態の乖離(かいり)が甚だしいということだ。

 こうした現状を踏まえて提言は、「暫定保管」の期間として50年を設定、「最初の30年までを目途に地層処分のための合意形成と適地選定、さらに立地候補地選定を行い、その後20年以内を目途に処分場の建設を行う。なお、天変地異など不測の事態が生じた場合は延長もあり得る」と、現世代の責任において処分し、次世代に迷惑をかけないという原則にのっとり実施すべき作業・期間をはっきり示した。

 さらに「暫定保管という管理方式は、いきなり地層処分に向かうのではなく、問題の適切な対処方策確立のために、モラトリアム(猶予)期間を確保することにその特徴がある」とあらためて狙いを説明するとともに、この期間中に福島第一原子力発電所事故で崩壊した、電力会社、政府、科学者に対する国民の信頼を回復し、高レベル放射性廃棄物の処分についての理解と合意形成を得ることが重要だとしている。

 一方、国民に対しても、踏み込んだ提言をしていることが目を引く。「国民は、本意か不本意かにかかわらず原子力発電の受益者となっていたことを自覚し、暫定保管施設や最終処分場の選定と建設に関する公論形成への積極的な参加が求められる」とし、さらに「原子力発電に反対の立場をとってきた市民は、自身が受益者になっていることを自覚することに否定的になるとともに、暫定保管施設の建設の在り方に関する公論形成への参加を拒否する権利を有するかもしれない。しかし、高レベル放射性廃棄物は既に大量にたまっており、これを放置することは国民的利益に反することであり、また自身にとっても高レベル放射性廃棄物を抱え込むというリスクを負うことになる」と、この問題により積極的に取り組むことを求めた。

 日本学術会議高レベル放射性廃棄物の処分に関するフォローアップ検討委員会の今田委員長は、「暫定保管」という考え方を初めて提言した2012年9月の原子力委員長に対する回答「高レベル 放射性廃棄物の処分について」が公表された後、次のような見方を示している。

 「高レベル放射性廃棄物の処分問題は、あと50年経過するかしないかのうちに、国連安全保障理事会の最大のテーマになるのではないか。今、原子力技術についての専門家が十分にそろっていない国でも、原子力発電をどんどん導入しようとしている。この調子でいくと、使用済み核燃料は莫大(ばくだい)な量になる。米国やフランスは、開発途上国に使用済み核燃料の地層処分を任せるだろうか。現在の取り決めだと、自国の原発から出てきた高レベル放射性廃棄物は自国内で処分することになっているが、絶対に任せないと思う。リスクが高すぎて」(2012年10月29日インタビュー「高レベル放射性廃棄物『暫定保管』提言の衝撃」第3回「いずれ国連安保理の最大テーマに」参照)。

 原発先進国、日本が高レベル放射性廃棄物処分についていつまでも具体的作業に踏み出せないでいると、国際的な責任も果たせない、ということだろうか。

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