レビュー

編集だよりー 2013年2月4日編集だより

2013.02.04

小岩井忠道

 週末のテレビ番組も、指導者の選手に対する暴力行為で揺れる柔道界を取り上げていた。自浄能力というのは、難しいものだなあ、と感じた人も多かったのではないだろうか。柔道全日本女子の園田隆二監督が記者会見で辞意を表明した翌1日の各紙朝刊には、日本オリンピック委員会(JOC)竹田恒和会長の記者会見記事も載っていた。JOCが実態調査に乗り出すことを決めた、と語っている。

 旧知のJOC理事に電話して聞いてみた。1月31日急に呼び出しがかかり、夕方5時から約2時間議論したそうだ。この日、「JOCが主体的に調査してほしい」と、竹田会長が下村博文文部科学相から直接言い渡され、急きょ、理事・監事の招集となったのだろう。

 柔道女子のトップ選手15人が全日本柔道連盟を飛び越えて、JOCに園田監督の暴力やパワハラを告発する—。異例の事態が報道された直後に、「監督辞任は避けられない」と考えた人はたくさんいたのではないだろうか。通常でも大騒ぎになるのは必至と思われるのに、大阪市立桜宮高校のバスケット部員に対する顧問教師の暴力が大問題になっている時だ。ところが全柔連の対応は「園田監督続投」だった。

 「日本は、下(現場)はいいのに、上(幹部)が悪い」。国会の東京電力福島原子力発電所事故調査委員会で委員長を務めた黒川清氏が、日本記者クラブの記者会見で確かそんな意味のことを言っていたのを思い出す。

 「全柔連が監督続投に傾いてしまい、女子選手たちも『この上はJOCに告発するほかない』となった」。電話をした旧知のJOC理事の話である。ただし、JOCも大きな顔はできないのではないか。文部科学相に言われるまで、全柔連に対応を任せようとしていたのだろうから。

 編集者の出身高校で柔道部が廃部となったのは、編集者の卒業後ではあるものの相当前の話だ。同じような例をいくつか集めた記事「高校柔道部の廃部相次ぐ」が、確か朝日新聞に載ったのを覚えている。よく知られているように柔道は東京オリンピックで初めて正式競技になった。オリンピック種目うんぬん以前に、そもそも日本で生まれたスポーツ自体がほとんどないのだから、柔道をやっている人たちはもっと威張ってもよいはずだ。現実には、柔道人口はフランスに追い抜かれたといった記事は目にしても、国内で柔道をやる人が年々、増えている、という話は聞かない。

 まず競技人口を増やす算段を、柔道界は考えた方がよいのではないだろうか。競技人口が増えればいい選手は増えるし、指導者だって自然に立派な人ばかりになるだろうから。

 2日、都心で開かれたシンポジウム「基礎研究が支える脳科学 - 日本発、世界へ -」を傍聴した。脳研究の進展に期待する患者と思われる人たちも含め、会場は満員に近い。文部科学省の「脳科学研究戦略推進プロジェクト」(2008-2012年度)の総まとめともいえる報告が続き、宇宙とともに脳研究にとりわけ関心の高い評論家、立花隆氏が司会を務めるパネルディスカッションが最後に設けられていた。

 とにかく、この研究の進展に目を見張る。最近、一般紙にも取り上げられることが多い「ブレイン・マシーン・インターフェース」(BMI)の研究も、川人光男・国際電気通信基礎技術研究所脳情報通信総合研究所長によると、「10年ほど前までは『SF(サイエンスフィクション)みたいな研究なんて』『米国が進んでいるから今さら日本が始めても』などと言われ、申請しても研究予算がつかなかった」という。

 ところが、里宇明元・慶應義塾大学医学部教授によると、この分野も進展は目覚ましい。頭皮の上から運動イメージに関連した脳波を高い精度で取り出し、電動装具と組み合わせて、治療困難だった重度の上肢まひを回復させるめどがついた、というから驚く。

 一方、課題がないことはない。個々の分野では欧米に負けないレベルの成果が得られている中で、社会に役に立つまでに必要となる神経科学、情報、機械工学といった関連する専門分野の融合と統合を図る面は、まだまだ。さらに研究者の層、例えば神経科学者の数も米国に比べるとだいぶ少ない、といった問題点も指摘された。

 危機に直面している柔道界も、一段の飛躍を目の前にした脳科学の世界も、似たような課題を抱えるということだろうか。

 立派な指導者(プロジェクトリーダー)の存在と、競技人口(研究者)の増加、という。

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