日本国際賞受賞者発表の記者会見(30日)に出て、時の流れを感じた。国際科学技術財団が賞創設時からメディアを大事にしていることは、よく知っている。第4回目(1992年)から7回目(95年)くらいまでだったろうか、マスメディア各社の科学記者とともに授賞式に毎回、招待されていた。こういう席では、まず食事をしてからあいさつや乾杯があるのか…。天皇陛下ご夫妻も交えた授賞式後の祝宴で、初めて知る。
宴席は中央の長いテーブルに天皇陛下ご夫妻と受賞者、三権の長、財団幹部夫妻などが並び、周りの長テーブルに各国の大使夫妻かと思われる人たちも含め、内外の招待者が座るという形だ。タキシードを貸してくれるということだったが、似合うとは到底思えない。ダークスーツでも可というので、毎年、普段の装いで勘弁してもらった。
こういう招待者は編集者を含め何人かいたが、ほとんどは正装の人ばかりである。欧米人と日本人の違いでえらく目立つのが首の長さだ、ということに気付く。イブニングドレス姿の女性だと特に、食事で上半身をやや傾けた姿を横から見た時に、はっきり分かる。着物が日本人女性に合う正装として生き続けてきたことを、初めて納得したものだ。
さて、今年で29回目となる日本国際賞は、米国人3人に贈られることになった。実は昨年も感心したのだが、記者会見に出た記者、写真記者、カメラクルーの数が多いことである。財団の広報担当者に後で尋ねたら、海外メディアを含む27社36人の記者、写真記者とテレビのクルー3人が集まったという。編集者が招待されていたころの受賞者発表の記者会見にこれほどの数が集まったとは思えない。おそらく、一般紙、専門紙、NHKの記者10人前後だったのではないだろうか。財団の広報担当者が長年にわたって新聞、放送、通信社だけでなく雑誌などに対しても丁寧な広報活動を続けてきた結果なのだろう。
質疑に入って最初に質問したのが、米科学誌「サイエンス」の東京支局長だったのにも驚く。産学連携が日本でうまく行っていない現実を踏まえた質問だ。今でもあまり変わってはいないだろうが、産学連携というのは経済重視の一部新聞を除いて、日本の新聞、放送、通信社が苦手とする取材対象ではないかと想像する。産業界を取材対象とする多くの経済記者は、企業と大学の技術開発協力などに大きな関心を持っているとは思えないし、一方科学記者は、相変わらず基礎科学に偏った記事をいまだに書き続けているように見える。
「発明するのは一番簡単。実世界でどう応用していくかが難しい」。半導体の微細化に大きな貢献をした業績で受賞したジャン・フレシイエ氏の言葉を、会場の科学記者たちがどう聞いただろうか。