レビュー

編集だよりー 2012年7月22日編集だより

2012.07.22

小岩井忠道

 21日の土曜日、東京都あきる野市と檜原村の境に立つ臼杵山に通信社時代の仲間たちと登った。JR五日市線の終点、五日市駅からバスで檜原村元郷という所まで行き、登山道に入る。知らない人なら入口を見過ごしてしまいそうな狭い道だ。

 いつもより仲間が少ない、と思っていたのだが、雨模様のせいではないとすぐ気づく。リスクを察知して避けたのだろう、と。そもそも参加者は事前に幹事に連絡するようになっており、急な不参加者は心筋梗塞で緊急手術となった先輩だけという。2時間ちょっとで頂上(842メートル)にたどり着いたが、この時間内で高度差600メートル強を上り切る (登り口の標高は200メートル余)というのが生やさしいものではないことを、と実感する。

 行きにバスで通り過ぎたあきるの市荷田子まで下りて来るまで、眺めを楽しめたのは結局、下る途中の1カ所だけだった。林の切れ目がほとんどないコースなのだ。そういえば、途中、ほかのグループには全く会っていない。

 秋川沿いにある立派な温泉施設「瀬音の湯」で体をほぐした後、打ち上げの場に事欠かない拝島まで移動する。

 「この間書いていたマージャンの話ね、同感だよ」。拝島へ向かう五日市線の車中で隣の先輩に話しかけられる。6月2日付の編集だよりについてだ。「同感」と言っていただいた記事は、通信社時代の先輩後輩たちでつくっているマージャンサークルが、最近のルールと異なる古典的ルールでやっていると聞いて参加した時の話だ。このルールなら勝てるだろうと思ったら、負けてしまう。概ね昔に近かったのだが、唯一「焼き鳥」という性に合わない今風のルールが入っていた。これじゃあ、実力本位の結果は期待できない、とまあ「負けた腹いせに」書いたような内容である。

 「割れ目」、「焼き鳥」、「蒸発」、「ピカドラ」などなど、運まかせの要素が多く、場数を踏んでいない人でもしばしば大勝できるような最近のルールはつまらない。だから今でも昔のルールでしかやらない、という話を聞いたのはこの先輩からだ。しばしマージャン談義を楽しんだのだが、とんだ早とちりしていたことも分かり、笑ってしまう。先輩の話は通信社OBのマージャンサークルについてではなく、大学以来のマージャン仲間内の話だった。そもそも、編集者がルールにいちゃもんをつけた通信社時代の仲間のマージャン大会には参加したことがないというから、編集者の思い違いもはなはだしい。この手の勝手読みによるミスがどうも最近増えているような気がして、大いに反省した。

 先輩の愉快な話が続く。古典的ルールにこだわる大学以来のマージャン仲間との親しい交流はずっと続いており、ある時期、電動式マージャン卓まで共同で購入してしまった。今どのくらいするのか知らないが、手に入れた当時、電動式マージャン卓の正価は30万円程度だったそうだ。狙った中古品でも半額程度はする。「アフターサービスはいらない。自分たちで運ぶから配送も不要」とさんざん値切ってさらに半分の価格で売ってもらった、というのである。

 電動式マージャン卓が突然、動かなくなってしまう。そんな場面には編集者も何度か遭遇している。大体は簡単に直るものだが、まれに素人では手に負えないこともあった。その際、内部をのぞいたものだが、いかにも壊れやすそうな機械的部分がある。先輩たちが手に入れた卓は全くトラブルがないそうだから、よほどよい中古品にめぐりあったのだろう。

 翌22日の日曜日、岩波ホールでフランス映画「キリマンジャロの雪」(ロベール・ゲディギャン監督)を観た。同名の有名な小説の映画化ではなく、タイトルは、途中とエンディングに実にうまく使われているシャンソンの曲名からとられている。波止場や坂道の途中にある主人公の自宅からの眺めなど、作品の舞台であるマルセイユらしい(行ったことはないが)映像が心地よい。そして何より、脚本が実によくできている。非日常的な出来事から始まる筋立てなのだが、ありそうな話だと思わせるところが優れた点なのだろう。

 強盗に遭い、その犯人が意外な人物だった、というと、「その土曜日、7時58分」(シドニー・ルメット監督、2007年)を思い出す。しかし、こちらは次から次と非日常的シーンばかりで、どうにもしっくりこなかった。いくら意外性があっても、ありそうもない話ばかりでは、今風のルールで戦うマージャンのようなものではないか。相手の手がどのくらい高いのか、さっぱり読めない…。

 その点、「キリマンジャロの雪」の方は強盗にあった後、主人公の妻の妹が情緒不安定になるなど、納得する場面が多い。意外性に感心する場面も数カ所、盛り込まれているが、それらが実にたくみでとってつけたようでないところも、こちらの作品の方がはるかに上質だと感じた理由だろう。

 「フランスの社会派、ロベール・ゲディギャン監督は小津安二郎監督を敬愛し、その魅力を『シンプルな力強さ』と語る」。22日の東京新聞朝刊トップ記事「3D邦画しぼむ」に、そんな記述を見つけた。

 なるほど、この監督の作品なら日本人にもしっくり来るのは当然か。再度、納得する。

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