レビュー

編集だよりー 2012年6月2日編集だより

2012.06.02

小岩井忠道

 昔はよく映画を見たものだなあ。朝日新聞5月26日朝刊、別刷り面に載った記事「こよなく愛する西部劇映画」を読んで、あらためて思った。同新聞の会員サービス「アスパラクラブ」のウェブサイトでアンケートした結果というベスト10作品の中で、観たかどうか記憶があいまいなのは8位の「OK牧場の決闘」(1957年)だけ。後は1位の「シェーン」から印象に残る場面の幾つかがすぐ目に浮かぶ作品ばかりだ。

 セルジオ・レオーネ監督、クリント・イーストウッド主演のイタリア製西部劇「夕陽のガンマン」「荒野の用心棒」が5位と7位に入っている。どちらも面白かったが、レオーネ監督なら「ウエスタン」(英語題・Once Upon a Time in the West、1968年)の方を編集者なら選ぶ。

 3週間前に茨城大学で行われたフォーラムに参加した際、大学近くのDVD店に、懐かしい旧作のDVDが並んでいたので、3本ほど買ってきた。「ウエスタン」はそのうちの1本だ。親切なDVDで、本作品だけでなく、解説版がついている。これが半端ではない。3人のガンマンが駅でチャールズ・ブロンソンが乗った汽車を待つ冒頭の場面は、「真昼の決闘」(フレッド・ジンネマン監督、ゲイリー・クーパー主演、1952年)が下敷きになっている。初の悪役を演じたヘンリー・フォンダに虐殺される一家の少年は、「シェーン」の子役を意識して撮られた…。こうした解説が延々と続くのだ。最後まで観たら3時間近い作品をもう一度、観直すことになると気付いて途中で勘弁してもらったが、レオーネ監督が、米国の西部劇作品に深い敬意を払っていることがよく分かる。

 映画界には、先人が開拓した手法は敬意を払った上で、遠慮なくまねさせてもらう、という伝統のようなものがあるのだろうか。朝日新聞記事のベスト10作品を見ると、2位に入っている「荒野の七人」(ジョン・スタージェス監督、ユル・ブリンナー主演、1960年)は、よく知られているように黒澤明監督の「七人の侍」のリメークだ。7位の「荒野の用心棒」も同じ黒澤監督の「用心棒」(1961年)の筋をそっくり借用している。無許可だったため裁判になり、黒澤監督側の言い分が通ったことを知る人も多いだろう。

 「夕陽のガンマン」「荒野の用心棒」で主役を演じたクリント・イーストウッドが監督・主演した映画「ペイルライダー」(1985年)を思い出す。これを見て「シェーン」のリメークでは、と編集者は思ったものだが、「類似がみられる」(Wikipedia「ペイルライダー」)作品ということで済んでいるらしい。

 通信社時代のマージャン愛好家のグループが定期的に開いているマージャン大会に初めて参加した。甲州街道を歩くグループにも入っているメンバーから「完全先付け、食いタンヤオのみの上がり禁止、割れ目なし」でやっていると聞いて出る気になった。これなら学生時代のルールに近いし、“実力“も発揮できると考えたからだ。とにかく巷(ちまた)にはびこるマージャンはとっくの昔に勝負事というよりギャンブルになってしまっている。もっとやるべきことも多かった若き日に必勝法を追求、膨大な時間を費やした人間にとっては、興がわかないことおびただしい。

 番号札を引いて5卓に分かれ、55分で強制的に終了、その回の成績順に対戦相手を組み換え、4回行う、というルールだ。別に3人マージャンをしている卓があり、不思議だったが、初心者の女性2人を幹事役の1人が教えていると知り、すっかり感心する。こんな世話役がいるからこうした催しも続いているのだ、と。

 昔の日本みたいにこうした奇特な人がたくさんいたら、未婚の男女がこんなに増えるという社会現象も起きてなかったかも、などと余計なことに思いをめぐらす。

 ただし、この日も松山恵子の歌謡曲をくちずさみたくなるような結果に終わった、というところだろうか。「やっぱりアンタもおんなじおとこー…」

 前述のルールに加え、流れ場が300点など昔と同じルールもほかにあり、編集者の嫌いな最初からの固定ドラも五筒(ウーピン)だけというのはよい。高い手、安い手いろいろな応酬で勝負事の妙味は相当あったのだが、唯一、一度も上がらないまま終わると15,000点という大きな罰則を払わなければならないルールだけはなぜか今風なのだ。

 とにかくまずは上がらないと、という焦りと、中盤過ぎて一度も上がらない人間がいると既に上がっている他の人間にこれまたとにかく早く終わらせようという意識が働く。編集者としては、捨て牌に工夫を凝らし当たり牌(はい)を引き出すなど技で勝負する暇がない。実際に二度ほど時間切れ寸前に上がって辛くも罰点を免れるケースが二度もあった。

 「やっぱりアンタも…」という心境に終わったという次第だ。

 最初はひたすら敵の不法、残虐行為に耐え、最後ににっくき悪党を血祭りに上げる。「シェーン」や「真昼の決闘」のようなマージャンをもう一度やりたいなあ。

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