レビュー

編集だよりー 2012年3月9日編集だより

2012.03.09

小岩井忠道

 6日の夜、バスケットボール女子、Wリーグプレーオフ決勝をテレビで観戦する。第3戦で実力は下と思われるトヨタ自動車が圧勝したので、あるいはと思ったが、やはりJXが3勝目を挙げて4連覇となった。

 第4クオーター、JXが1点差に追い上げられた直後の攻防が両チームの力の差を明確に示した、と思う。翌日の各紙朝刊の選評を見ると大体、ポイントははずしていない。JXのポイントガード、吉田亜沙美選手の勝負所における活躍はだれが見ても分かるくらい抜きん出ていた。

 優勝を決めた試合で吉田選手が見せた決定的なプレーは、数紙が伝えているように1点差に迫られた時に、ゴール下にドリブルで切れ込んでシュートを決めたプレーだ。身長165センチの吉田選手に178センチの矢野良子選手(2004年アテネ五輪代表選手)が立ちふさがったが、シュートを阻止できなかったばかりか、反則もとられる。吉田選手にはさらにフリースロー1本の権利が与えられた。このプレーは3ポイントプレーと呼ばれ、本場の米国などでは観客から拍手喝采される。編集者が中学、高校生のころにはなかったルールだ。

 吉田選手は、その直後も再びゴール下にドリブルで切れ込み、追いすがるディフェンスに対し、今度はボールを持った手を横に大きく振るフックシュートを見事に決めた。その前のシュートで見せたダブルクラッチ(空中でボールの位置を大きく変える)といい、このフックシュートといい一流の男子選手でも簡単にできるプレーではない。

 結局、1点差に詰め寄ったトヨタ自動車の健闘もそこまで。追い上げが一時的に功を奏したのは3点シュートが続けて決まったのが大きいが、編集者の知る限り、点差を広げられたチームが3点シュートを連発して逆転してしまうというケースは滅多にない。3ポイントラインの外側からゴールを狙う3点シュートの成功率は当然、2点シュートに比べ低い。だから、特にここぞという時こそ、確実に2点シュートで点を積み上げる。それが、本当に強いチームのまっとうな戦術だからだろう。

 などと偉そうなことを言うのは、普通の観戦者よりは編集者の方がその辺りの選手や監督の気持ちが想像できると思うからだ。49年前、高校3年の夏に新潟県三条市で行われたインターハイ(高校総体)の1回戦、2点差であえなく敗れてしまった試合を思い出す。僅差を追う第4クオーターの終盤、ポイントガードだった編集者の中距離シュートが2本立て続けに決まった。今なら多分、3点シュートになる位置からだったが、当時、3ポイントルールはない。2点にしかならないのに遠くから成功率の低いシュートをなぜ打ったか。

 センターを含め先発メンバー3人が5反則退場になってしまっていたのである。一番背の高い(といっても確か173センチ)の1年生をポストに立たせ、ドリブルインすると見せかけてジャンプし、パスをこの選手に落とす。この時はうまいことジャンプシュートを決めてくれた。しかし、次にまた同じことをしたら、完全に相手に読まれ、パスをカットされただけでなくボールも奪われてしまった。同じミスは繰り返せないし、ほかにシュートが入りそうな選手もない。攻め手に窮し、やむなく大外から打ったシュートが、たまたま続けて入っただけだったのだ。

 3本続けて成功するとはいくら何でも思えなかったからだろうか、単に時間がなかっただけなのか記憶は定かではないが、3本目を打つ機会はなかった。結局、同点だった試合終了間際、相手のセンターに成功率の高いゴール下のシュートを決められ、これが決勝点になってしまう。

 そもそも5反則退場者を3人も出すというのは、相手がゴール下にパスを集め、成功率の高いシュートを狙うというまっとうな戦い方をしたから、わが方のセンター、フォワード陣のファールが増えてしまった、ということだ。

 わがチームには速攻という相手にない武器はあった。しかし、総合力では点差以上に相手が上だった、ということだろう。トヨタ自動車に対するJXと同じように。

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