レビュー

編集だよりー 2012年1月27日編集だより

2012.01.27

小岩井忠道

 朝のNHKニュースを見ていて笑ってしまった。お年寄りの脱水症に警告を発するニュースだ。
実は数日前、最近では飛び抜けた、というより、これまでの人生でも滅多にない失態を演じたばかりだったからだ。お世話になり通しの高校の先輩に、都心の名だたるホテル内のこれまた有名なレストランでごちそうになっている時だった。サラダ、オニオンスープ、エスカルゴ…。出てくる一つ一つにさすがだなあ、感心しながら食べている間は、まさに幸せな気分である。

 ところがメインのローストビーフが出てきた時に急に異常を感じた。ナイフ、フォークを動かす気にならない。汗が次から次に噴き出してきて、ついに額に手を当てた状態で身動きもままならない状態に陥る。結局、先輩や同席していた方たちの配慮により救急車で病院に搬送されるという事態になってしまった。数年前、親しい別の先輩と赤坂でしたたかに飲み、地下鉄ホーム内の階段で転げ落ちて以来、救急車のお世話になるのは2回目である。

 病院について点滴を受け、しばらくするうちに正気に戻ったのだが、血液検査や心電図検査などを受けた後に医師に言われたことが「脱水症状で血液が脳に回りにくくなったと思われるが、血液検査で腎臓に関する気になるデータが出ている。内科にカルテを回しておくので、後日、再度、検査を受けてほしい。腎臓に問題ないことが分かれば、単なる脱水症状ということになる」というものだった。

 腎臓に問題があるという検査結果はこれまでなかったので、原因は単なる脱水症状とほぼ見当がつく。実は前夜、職場の同僚と遅くまで飲み、脱水状態にあった上、朝から食欲がまるでなく一切、飲み食いすることなく夜まで過ごしてしまったからだ。おまけに夕食をごちそうになる前にサウナでたっぷり汗も出している。

 そもそも平常時でも水分というのは、ほとんど摂らない悪い習慣がある。出勤直後に休憩スペースで簡単に手に入る緑茶を飲むことにしているが、これは糖尿病防止のため毎日服用しているインシュリンの薬を飲み込むためで、お茶そのものはしばしば飲み残すくらいだ。中学、高校時代を通し、運動部の練習、試合中には水を飲んではいけない。余計な体力を使うから、という科学的根拠に欠ける常識が支配していた世代である。おまけに牛乳を飲むとすぐ腹をこわすし、コーヒーも腹が痛くなるか胃が重くなるだけだ。水分を摂るなんて何のプラスに、という考えに縛られて長年、生きて来ている。アルコールだけが例外だが、それも水分が多いビールは好きになれないのも、そのせいに違いない。

 もう一つ思い出したことがある。ずっと忘れられないことといった方がよいかもしれない。あれは、もはや重厚長大の時代ではないということが言われ出したころだった。経団連の指導的立場にもあった製鉄会社のトップが、航空機の中で出てきた清涼飲料水のボトルを見ながら嘆いた、という小さな記事が雑誌に載っていた。「同じ重さの鉄(製品)より、こっちの方が高価とはなあ」と。

 「中東ではガソリンの方が水より安い国がある」。そんな学校の先生の話などにびっくりし、もっと前の幼少時には年長の遊び友達とともに鉄くず屋に鉄や銅を持ち込んでなにがしかの報酬を得た、という経験も持つ世代だ。財界の重鎮の嘆きもよく分かった。

 それやこれやのつけが一挙に顕在化したのが、今回の大失態だった、ということだろう。これからは努めて水分を摂取することにしよう。清涼飲料水の百数十円を無駄遣いだなどと思わず。

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