なでしこジャパンの快挙の後だけになおさら目立つが、バスケットボールは女子も世界の一流レベルとはだいぶ水を開けられている、という感を深くした。28日、日経新聞朝刊の戦評に出て来る「横のパスが出てしまった。最初からもっと縦に攻めていければ」という吉田亜沙美選手の悲痛な言葉が、日本チームの弱点をよく表しているように感じる。
吉田選手は身長が165センチしかないガードなのに、パスワーク、シュート力というガードに不可欠な能力だけでなく、並みのセンターやフォワードの選手以上にリバウンドも多い、という素晴らしい選手だ。「横のパス」というのは、相手にパスカットされる危険が少ない消極的なプレーを象徴しており、「縦に攻めていれば」というのは、危険もある程度冒した上で、チャンスをつくることに貪欲なプレーを意味しているのは間違いないと思う。
日本のバスケットボールしか観たことがないのに、突然、米国の高校、大学生チームやNBA(米バスケットボール協会)の試合をしばしば観戦する境遇になったことがある。25年ほど前で、マジック・ジョンソンやカリーム・アブドゥル・ジャバを擁するロサンゼルス・レイカーズとラリー・バード、ケビン・マッケイルらを擁するボストン・セルティックスが毎年のように全米1を争って名勝負を繰り広げていたころだ。
日米のバスケットが似て非なるものだとつくづく感じた一つが、攻撃のボールの動きがまるで違うことだった。バスケットボールは、元々は、得点を野投(フィールドゴール)が2点、相手の反則で得た自投(フリースロー)を1点に数えていた。遠い距離からのシュートほど見栄えがよいので、NBAは早々と3点シュートルールを導入、アマチュアも20年位前に追随した。
3点シュートルールがあった方が試合は面白くなるのは確実だが、3点シュートがうまい選手をそろえた方が圧倒的に有利だろうか。そんなことはないというのが米国のバスケットを観てつくづく感じたことだ。野投で一番、成功率が高いのは速攻からのレイアップシュート(昔はランニングシュートと言っていた)である。守る相手は大体いないし、シュートを落とすというのは滅多にない。続いてゴールのすぐ下から長身の選手がねじ込むシュートで、最も成功率が低いのはゴールから離れたところから決めるシュートである。
米国のバスケットの大きな特徴は、攻撃のパス回しでゴールから遠い選手から、ゴールに近い位置に陣取ったセンターやパワーフォワードにボールをパスするプレーが非常に多いということだ。ディフェンスの外側をボールが回っているような「横のパス」は少ない。同じシュートをさせるには、ゴールに近い選手にできるだけ多くのチャンスを与えた方が得点の確率が高くなる、という実に理にかなったプレーだと分かるのにそう時間がかからなかったことを思い出す。
高校、大学のチームも基本的に似たようなものだが、特にNBAの場合、ゾーンディフェンスを禁止しているから、防御側がゴール下だけをがっちり固めるということはできない。ゴールに近い選手にボールを集めるプレーの価値は、なおさら高いのだろう。だからゴール下で少しでもよい位置を取ろうとする攻撃側のセンターやパワーフォワードとそれを許すまいとする守備側の選手との戦いは、格闘技を思わせる。スーパースターでも容赦はされず、あまりにしつこい防御に頭に血が上る選手も時々出て来るというわけだ。大事な試合で、セルティックスのバード選手が相手を殴りつけてしまい、退場の憂き目に会った試合をテレビ観戦したことがある。ロサンゼルス・レイカーズの全盛期に一度だけ、ヒューストン・ロケッツがウェスタンカンファレンスを制したことがあった。ラルフ・サンプソンという2メートル20センチを超す人気のあるパワーフォワードがいた。大型センターのオラジュワンと並んでツインタワーと呼ばれていたものだ。この選手が、確か全米一を決めるセルティックスとのNBAファイナルで同じようにしつこいディフェンスに怒り相手選手を殴りつけて退場させられている。こうしたケースは相手もやり返して双方退場という判定もよくあったように思うが、仮にそうだったとしてもスーパースターを退場させられたチームの方が大損なのははっきりしている。相手側が代わりはいくらでもいる控え選手だったりしたらなおさらのことだ。
日本ではこうした退場につながるような激しいプレーがあまり見られない。「横のパスが出てしまった」と吉田選手が悔やむように、日本の選手たちは相手が手ごわいとパスをぐるぐる横に回してばかりいるような楽なプレーに逃げ込んでしまう、ということではないか。ロンドン五輪の代表権をかけた今回のバスケットボールアジア女子選手権で、国内の試合では大活躍したとよく褒められている若手大型選手の活躍がさっぱり報じられなかった。国内では身長があるというだけで活躍できるから、国際試合ではより体を張ったプレーをしないとどうにもならないという現実がまだよく分かっていないからではないだろうか。
男子に限らず女子も世界に通用するセンター、パワーフォワードが何より必要とされている。競う相手に乏しい国内で試合しているだけでは体を張った厳しいプレーをしないでも済んでしまうのだから、国外で鍛えさせるしかない。オリンピックに出場するには…。指導者たちはそう考えないものだろうか。
多分、「分かっちゃいるけど…」という事情があるのだろう。