さて、今年はどこで初日の出を拝もうか。5時に目が覚めて考えた。2年前には道が分からずあちこち歩き回った挙げ句、日の出を眺めたのは歩道橋の上から。これではありがたみがもう一つだ。東京湾へ出る道を探し回った大井埠頭(ふとう)付近をあらためてパソコンで調べてみる。2年前には品川火力発電所敷地のすぐ南側、大井埠頭の北付近に東京湾に面した運動公園らしいものが確かにあったのだが、地図からは消えていた。当時、既に倉庫か何かに替わっており、たどりつける公道など無かったのだろう、と納得する。
ならば近くに適当なところはないか。パソコンの画面を南にずらしていくと羽田空港の北側に大森ふるさとの浜辺公園というのが目に付いた。ここにする。新馬場駅まで歩いて京急に乗り、大森町で降りる。公園の方向と見当を付けた方角にしばらく歩くと、ウォーキングスタイルに身を固めた熟年女性がしっかりとした足取り追いついてきた。公園まで道ずれになる。「この辺に住んで長い」というので「だいぶ昔とは変わったでしょうね」と当たり障りのない質問をした。「近所は年寄りばかりになった。公園もいつもは年寄りが多い」とのこと。
広くて立派な公園に驚く。南端から人工と思われる浜辺を歩いていくと、人の姿が多い場所がある。「甘酒いかがですか」。紙コップをお盆に載せた初老の男性が近づいてきた。久しぶりに温かい甘酒を味わう。聞けば、周辺の5つの商店街が初日の出を見に来る人たちに無料で振る舞っているという。大きなナベから紙コップに甘酒をついでいる場所の背後に小さな売店があり、飲み物やソフトクリームなど品目を書いたビラが下がっていた。5つの商店街が組合を作り、日曜祭日、夏の間は毎日、営業しているそうだ。公園の維持管理にあたる団体にも加わっているという。昔は海だったところを埋め立てて公園を造ったということも、教えていただく。
まだこんなに活発な活動をしている商店街があるのか。すっかり感心していると、TBSのマークを付けた機材をかついだカメラクルーが現れ、商店街の人たちの取材を始めた。
太陽が顔を出すと教えてもらった方角に羽田空港があり、離陸する航空機が見える。早朝というのに飛び発つ航空機は多い。ある程度、上昇してから旋回して南方に向かう航空機と、そのまま北方向に向かう2種類に分かれる。前の機影がまだはっきり見えるうちに次の航空機が上昇する姿を見ているうちに、30年近く前、管制官に取材したことを思い出した。管制システムがコンピュータ化でどの程度、便利になったのか、あるいはそれほどでもないか、を聞き出すのが目的だった。まだ若い管制官の一言だけをいまだに覚えている。
「次から次へ航空機が離着陸する。そうした状態で管制業務に当たるのが、本来、われわれ管制官の仕事」。コンピュータ化の効用を云々する以前に、離着陸する航空機が多くない現状で管制官は腕の振るいようもない、という意味だ。当時、初対面の記者にこんな率直なことを言う公務員は珍しかったせいだろう。すっかり感心したことを思い出す。
成田も羽田も米国や韓国のハブ空港に比べると発着数ははるかに見劣りするといわれる。管制官たちの充実感もまた、いまだに十分とは言えないということだろうか。
午前7時、目の前の昭和島からオレンジ色の太陽が顔を出す。ここ4年、初日の出を拝んだ場所の中では、甘酒の振る舞いが無くてもベストスポット、と満足した。
商店街の方から品川までたいした距離でないことを教えてもらい、歩いて帰ることにする。北側に隣接する平和の森公園を縦断し、平和島口から第一京浜に沿って北上、品川神社で初詣でも済ませた。大森ふるさとの浜辺公園から目黒川沿いに建つ賃貸マンション内の狭宅まで1時間程度。羽田空港の近さも実感した。