レビュー

編集だよりー 2010年11月9日編集だより

2010.11.09

小岩井忠道

 鶏卵の価格が何十年も変わらないままというのはよく聞くし、実感もしている。サケも似たようなものかも。秋田県にかほ市のサケふ化施設を見学して思った。これもまた役に立たないボランティアだが、横山忠長にかほ市長から「にかほ市ふるさと宣伝大使」というのを委嘱されている。首都圏在住の大使仲間13人で、8、9日にかほ市を尋ねた。市を訪れるのは2年ぶり3回目で、今回は初めて見学するところが多い。

 どこにでもありそうな小さな川をサケが上る様子をバスから眺め、すぐ上流にあるふ化施設に着くと、サケの腹を割いて卵を取り出す作業の最中だった。大がかりな施設ではなく、この卵を手早く取り出す作業にかかっていたのは二人一組だけ。この施設は、卵とオスから採った精巣でふ化させた稚魚を一定の大きさまで育て、日本海に放流している。1年に放流する稚魚の数は何万匹と決まっているから、それ以上の稚魚は育てないという。たまたま作業中だったのはふ化に必要な卵ではなく、市場に出す卵だった。「こちらはついでにやっているようなもの」と施設の責任者(市議会議員だそうだ)。稚魚の放流に対して出る補助金の方が収入としてははるかに大きい、ということらしい。

 卵を採られたメスの扱いがぞんざいなのが気になった。腹を割かれたメスは床に放り出され、別の作業員が大きなおけに投げ入れる。オスもまた似たような扱いである。稚魚を獲るに必要なオスの数などごく一部で済むのかもしれない。こちらは腹を割かれることもなく次々におけに投げ入れられていた。これらのサケはどうなるのか。

 「中国にでも行って、ふりかけの材料にでもなるのだろう」。責任者の答えも実に素っ気ない。しかし、ふりかけにするのにそんなに大量のサケが必要だろうか。前日、漁協のセリも見たのだが、タイやヒラメに混じってサケもたくさん運び込まれていた。いずれも採れたばかりの魚である。産卵のために川を上るサケはまずいそうだが、セリに出されたサケと扱いが違いすぎないか。ふ化施設を見学してから魚や野菜、その他、地元の名産品などを売る店が並ぶところも見学して、サケの値段というのが数十年前とあまり変わらないらしいと気づく。海で漁をしている仲間を考えて、ふ化施設で捕れたサケの本体は地元あるいは国内の魚市場に出回らないようにしているということだろうか。

 高校生のころ、弁当の主菜は塩ジャケの切り身か焼きたらこというのが多かったように記憶する。どちらもそんなに安い食品ではなかった。塩ジャケというのは編集者が育った地方だけでなく、東京あたりでも人に贈って恥ずかしくない商品だったように思う。

 サケの価値が気になって水産庁水産総合研究センターのウェブサイトを開いてみたら日本国内のサケの捕獲数は1960 年代後半の約500万尾から1990年代には約6,000万尾と10倍以上に増加した。一番多い96年には約9,000万尾にも上っている。2000 年にいったん4,000万尾前半まで減少したものの近年の回帰資源量は増加傾向にある、と書いてあった。

 ふ化施設の責任者によると、同じような施設が北海道と東北各県に複数ずつあるという。水産総合研究センターのグラフで見ると、稚魚の放流数と捕獲量の増加には明らかな関連があるのが分かる。稚魚放流数は、1960年代から70年代にかけて増加し、80年代以降は約18-20 億尾となっている。一番、捕れた年だと20匹稚魚を放流し、1匹の親サケが捕れた計算になるから、稚魚放流事業の成果だけでなく、サケの回帰本能にも敬意を表さないといけないということだろう。

 中国に輸出されてふりかけになっているという説明が少々気になるが、とにかくサケに関しては持続可能な漁業が成り立っているということだろうか。

 「事業仕分けの対象にされそうだが、補助金がなくなったらやっていけない」とふ化施設の責任者はけん制していたが…。

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