レビュー

産学連携一つの側面

2010.10.27

 公的研究助成が製造業の国際競争力強化にどの程度寄与しているか。予算編成においても常に議論されているという。だが、この問題は結構、厄介な側面を持つようだ。

 18日、科学技術政策研究所と研究開発戦略センターが主催した講演会で隅藏 康一・政策研究大学院大学准教授が興味深い調査結果を紹介した。企業が大学・公的研究機関の研究成果を事業にどのように活用しているかをアンケートで調べたデータである。企業の経営層に尋ねた結果と、重要度の高い特許を得た企業内の発明者に尋ねた結果に明らかな違いが見られたという。

 問題の質問項目は「大学・公的研究機関の研究成果がなければ生み出され得なかった商品の割合」がどの程度か、というものだ。企業の経営層では「全くない」と答えた人が40%以上に上る。「非常に小さい」も20%近く、「小さい」も約10%だった。プラスの評価となると「多少」「ある程度」が合わせて約20%、「大きい」「非常に大きい」「すべて」となると合わせても10%に満たない。

 要するに企業の経営陣の7割以上は、自社の製品開発に大学や公的研究機関の研究成果は全く役に立っていないか、役に立っているとしてもわずかだ、とみなしているということだ。

 これに対し、重要な特許を得るのに貢献した企業の発明者たちの答えは逆の傾向を示した。すべての商品が「大学・公的研究機関の研究成果がなければ生み出され得なかった」と答えた人が約6%いる。「非常に大きな」あるいは「大きな」割合の商品が、「大学・公的研究機関の研究成果がなければ生み出され得なかった」と答えた人も合わせて40%を超えた。つまり半数近くは、自社の商品開発に大学・公的研究機関の研究成果が大いに役立っていると評価していることになる。

 研究開発現場の事情をつぶさに把握している人ばかりではない経営層と、大学・公的研究機関の研究者との接触がある発明者とで同じ問いに対する答えが違うのは、ある程度想像できる。しかし、ちょっと差が大きすぎないだろうか。そもそも、なぜ、こうした調査に意味があるのか。総合科学技術会議など科学技術予算を決める側や科学技術予算の執行機関は、絶えず国会議員から苦言を呈されているらしい。「1995年に科学技術基本法をつくり、年々、科学技術予算を優遇して来ているのにそれに見合う十分な成果が出ていないではないか」という…。

 講演会に参加していた阿部博之 氏・前総合科学技術会議議員(前東北大学総長)は、会場で次のようにコメントしていた。

 「大学の研究室にはいろいろな企業から技術者が遊びに来る。そこで大事な話を聞いても企業に帰って『大学の先生に教えてもらった』と話す人はほとんどいないのではないか。それで怒る大学の先生も100人に1人くらいしかいないだろう。公的研究資金による企業への貢献についてはそうした潜在的な部分もあるということも、きちんと掘り起こす必要があるのではないか」

 阿部氏の発言を裏付ける話は、ほかの研究者からも聞いいたことがある。現在、連載中のインタビュー記事「無駄をそぐ - サービスイノベーションとは」に登場されている西成活裕・東京大学先端科学研究センター教授は、数多くの企業技術者の技術的相談を受け、研究者としての興味、関心から相当立ち入った協力もしている、と話している。困っているという相談を受けて「ではこうしたらよいのでは」とアドバイスをすると、お礼を言ってそれきり顔を見せなくなる企業の人たちも結構いるそうだ。「多分開発に成功している」と西成氏は言う。おそらくこういう人たちは「大学の○○先生に教えてもらった」などと企業内で報告していない可能性がある。

 講演会では文部科学省幹部から「企業の技術者がきちんと報告をしないために調査結果にこのような差が出てくるとしたら問題だ。その結果、企業の経営層が大学・公的研究機関への公的資金はあまり効果がない、と考えてしまう悪循環に陥るから」という声も聞かれた。

 産学連携の難しさというのは、こんなところからも伺われる、ということだろうか。

関連記事

ページトップへ