山崎直子宇宙飛行士らが搭乗した米スペースシャトル「ディスカバリー」による13日間の活動について、航空宇宙研究開発機構(JAXA)が宇宙開発委員会に報告した。
今回の主な任務は「多目的補給モジュールを国際宇宙ステーション(ISS)結合部に取り付ける」ことと、「搭載物資の移送」、さらに船外活動による「アンモニアタンク、レートジャイロ・アセンブリの交換」、「『きぼう』からの微小粒子捕獲実験装置・材料曝(ばく)露実験装置の回収」となっている。
このうち山崎宇宙飛行士が担当した主な任務は、シャトルロボットアームに取り付けたセンサ付きブームの操作による「ディスカバリー」機体の損傷点検、さらに多目的補給モジュールのISSへの移設と物資移送、となっている。
ISSの日本実験棟「きぼう」ではどんな実験が行われたのだろうか。「宇宙放射線と微小重力に長期間さらされた神経細胞が受ける影響について、遺伝子のレベルで詳細な情報を得る」、「筋肉の中のひとつのタンパク質(Cbl-b)に注目し、新規筋萎縮メカニズムを明らかにすることで、宇宙飛行士だけでなく、老化や寝たきりによる筋萎縮へ応用する」、「宇宙飛行士に付着している微生物、特に真菌(カビ)の変化を調べることで、今後の宇宙飛行士の健康管理に役立てる」、「『きぼう』船内の宇宙放射線量を計測する」といった説明が並んでいる。真菌の変化を調べた試料と宇宙放射線量を計測した機器は、ディスカバリーによって持ち帰られた。今後、地上でさらに詳しい解析が進められるということだろう。
これだけ読んで、大事なことをやっている、とピンとくる普通の国民は少ないのではないだろうか。
日経新聞26日朝刊「レビュー&プレビュー」面に「宇宙実験日本の果実は 医学データ蓄積/新材料生まれず」という記事が載っている。この18年間にスペースシャトルに搭乗した日本人宇宙飛行士たちの活動を振り返り「医学関連の研究は宇宙酔いを防ぐ薬の種類や量などの知識を蓄えるのに役立った。弱った骨や筋肉を地球帰還後に鍛え直す方法の研究も進んだ」と具体的成果を挙げている。
一方「ただ、それ以外の科学実験は掛け声倒れが目立つ。成果が米サイエンス、英ネイチャーなど有名科学雑誌に掲載された例は少ない。宇宙での結晶成長実験などから、エレクトロニクスや自動車などの分野で広く使われる優れた材料が生まれた話は聞かない」とも書いている。
日本の有人宇宙活動もよくぞここまで来た。シャトルの機体と搭乗宇宙飛行士乗員全員の命を失った2度の大事故を乗り越えて…。そう考える人たちは、とりわけ日本で有人宇宙活動を推進してきた人たちに多いと思われる。とにかくシャトル計画とISS計画に日本が参加しなかったなら、有人活動の経験は全く得られなかった、という思いもまた強いに違いない。
問題は、どれだけ多くの国民が同じように思っているかではないだろうか。
前原誠司 氏・宇宙開発担当相は、ディスカバリー帰還に際し、20日次のような談話を発表した。
「山崎宇宙飛行士が、野口聡一宇宙飛行士を含む各国の宇宙飛行士と協力し、予定されたミッションを成功裏に遂行されたことは、わが国としての責務を果たしたのみならず、多くの方々に感銘を与えました。地上との交信においては、日本古来の文化である俳句や琴を披露されましたが、国民の皆様に宇宙を身近に感じていただく上で意義深いものがあったと考えています。今後、国際宇宙ステーションにおけるさまざまな活動が、国際協力を一層進めるとともに、大きな成果をもたらすことを期待しています」
「きぼう」内での実験など科学的、技術的な具体的活動には触れていない。
「日本人宇宙飛行士たちのおかげで宇宙は十分身近に感じられるようになった。そろそろ有人宇宙活動は何のためにやるかをアピールしてほしい」。そんな声が宇宙開発を応援する人たちから出てきそうな気もするが、どうだろう。