牛丼チェーンの値下げ競争で「すき家」が牛丼並盛りを、「松屋」が牛めし並をそれぞれ250円に値下げ。そんなニュースを早朝ラジオで聞いた後、職場近くまで来たら、路上で男性がチラシを配っている。前を行く若い女性人たちが無視して通り過ぎるので、「同じ労働者では」という気持ちで受け取った。
ドトールコーヒーが、モーニングセット380円を始めたというチラシである。この店はまれに利用するが、注文する組み合わせはいつも同じで、確か700円くらい払っていた。380円というのも安いなあ、と孫たちの顔が浮かんだ。この価格だと若い店員たちの人件費に回るのはいかばかりか。ものが安くなるのはいいが、そのうち日本の若者の多くが低賃金の仕事にしか就けなくなる心配はないのだろうか。孫たちが大きくなったころに、とつい想像してしまったというわけだ。
このサイトでもサービス工学に関する記事を何度か掲載したことがある。サービス産業は、国内総生産(GDP)からいっても雇用に占める割合から見ても国内全産業の7割に上るという。なんとかこの産業の生産性向上を可能にする方法論を開発しようという動きが盛んになり始めているのだ。それはそうだ、と分かったようなつもりでいたが、実はよく理解できていない。生産性が上がって省力化が進むとサービス産業の人減らしが進むことにつながらないのか。それに代わる雇用の受け皿がないなんてことになったら、などと気になる。
先進国になるほど製造業がGNPに占める割合が低くなる、と北澤宏一・科学技術振興機構理事長に言われ、考え込んでしまったこともある。
そんな“深刻”な心配を忘れさせるような記事が、日経新聞の2日朝刊「経済教室」面に載っている。「円高の一因はサービス業の低い生産性」というのだ。サービス業の生産性を高めると円高が是正され、製造業の利益圧迫要因も解消される、というからこれなら分かりやすい。筆者はロバート・ディークル南カリフォルニア大学教授である。こんな重要なことは米国人に言われる前に日本人に教えてもらいたいものだ、と思いながら読んだものだ。
「製造業がつくるモノの価格は、貿易を通じて国際市場で決定される。これに対して医療や散髪などサービス業の価格は、国内市場でのみ決定される。国が豊かになると、サービスに対する相対的な需要が高まるため、サービスの価格は上昇する。しかし製造業の方は、国際市場で価格押し下げ圧力を受けるため、さほど上昇しない」
なるほど、これでは確かに日本の製造業はつらい。ディークル先生のさらに明快な解説は続く。サービス業の生産性が上がらずサービス価格が上がるままだと「日本のサービス業の価格が米国のサービス業の価格に対し相対的に上昇するので、日本の物価水準自体が米国に比べ上昇する。そして極めて長期的には2国間の為替レートは購買力平価により2国間の物価比率に等しくなるから、円は対ドルで上昇することになる」。聞き慣れない経済用語も出てくるが、おおよそ理解できそうだ。
要するにサービス業の生産性を向上して価格を下げれば円も下がる。医療、介護サービス、輸送、法務などサービス部門の規制緩和を推進すれば「サービス部門の雇用拡大につながるだけでなく、意外にも長期的に見れば円安にも結びつく」というのだ。
となると日本にいま必要なことは規制緩和ということになるだろう。答えが分かっているのになかなかできないのは、なぜか。規制があることで恩恵を得ている人たち、業界が抵抗しているからということだろうか。