都心で開かれた内外情勢調査会主催の全国懇話会で御厨貴氏の講演を聴いた。氏が司会を務める毎日曜早朝のTBS系列テレビ番組「日曜放談」は欠かさず聴いている(寝床で音声だけラジオで)。直接、話を聴くのは教授を務められておられる東京大学先端科学技術研究センター主催のシンポジウム以来だが、これも司会だったからまともな講演は初めてだ。
事業仕分けについての話が面白かった。東京大学先端科学技術研究センターは理系の研究者が多く、御厨氏のような文系は少数派である。研究費の差がすごい。氏が100万円程度の研究費でやりくりしているのに対し、一方は億円、中には二けたにもなる億の研究費を支給されている人もいる。これまでどういう理由でこのような研究費が支給されたかという説明など聞いたことがなかったのに、最近は教授会などで当の研究者が話すようになった。「文系の先生方は理解できたか」と聞かれたこともあり「分かった、と答えておいた。実はよく分からなかったが」。会場がどっと沸く。
これも事業仕分けの影響という。
面白かったのは、事業仕分けで責め立てられている官庁側の反応である。年齢が高い官僚ほど元気を無くしている人が多いのに対し、30くらいの年齢の官僚は逆に面白いと感じているふしがあるという。新しい政治体制にどう対応するか、前向きに考えている人間が多いというのだ。
キャリア官僚に対する学生の人気はかつてのような勢いはなく、国家公務員1種試験を受験する東大生の数はがた減り。そんな話を昨夏、前田正史・東京大学副学長に聞いたばかりだ。御厨教授のところにも「私は公務員に向いているでしょうか」などと相談に来る学生が多かったという。ところが昨年から、あれこれ悩んだりせず「素直に国家公務員試験を受ける学生が増えた」というのだ。氏によると今の政治情勢は英国や米国のような「2大政党」とはいえないそうだ。民主党も自民党も前途多難ということのようだが、こうした政治体制の変化がかえって東大生の官僚志向にプラスに働いているからということらしい。
御厨氏によると、東大生も他の若者同様、新聞は読まない。携帯でツイッターをやりとりし、コミュニケーションをとるのが当たり前になっている。政治家もそうしたライフスタイルの変化に対応できないと生き残れないのでは、というのが氏のご託宣である。
最後に時事通信の政治部長が参加者を代表していくつか質問をした。それに対する鳩山首相評が厳しかった。「首相の発言はぶれているわけではない。その時、その時の感想を述べているだけ」
氏はオーラル・ヒストリーの実践者として知られる。大物政治家などとの数を重ねた長時間インタビューで近現代史をまとめる研究手法だ。
「小沢幹事長はオーラル・ヒストリーの相手にどうか」という問いに対する答えは、次のようだった。
「相手にはしたいが、(オーラル・ヒストリーの必要条件である)コーディネートができない人では。多分、自分の言いたいことだけは話してくれるけど、話したくないことは一言も発しない、となりそうだ」