レビュー

食卓に迫る危機

2009.09.08

 こうした選(よ)り取り見取りの時代がいつまで続くだろうか。店頭にずらっと並んだ水産物、あるいは居酒屋のメニューに並ぶ魚介類の名前を眺めながら、そんなことを心配する人はどれくらいいるだろうか。

 6月12日に東京大学海洋アライアンスと日本財団主催のシンポジウムが都内で開かれた。名称は「食卓に迫る危機-3次世代に海を引き継ぐために-」だった。「漁業者の減少や水産資源の減少などから水産物を食卓に供給する能力は低下し続ける」「ウナギやマグロなどの大量消費国として日本は国際的な責務を忘れていないか」といった指摘が海洋研究者から相次いだという。

 WWF(世界自然保護基金)ジャパンのホームページに7日、「日本のマグロの目撃者たち」という記事が載った。世界的な関心を集めている大西洋のクロマグロだけでなく、日本の南方の海で産卵していると推測される「太平洋クロマグロ」もまた、大幅に減少していることに警鐘を鳴らす記事だ。

 クロマグロが食卓から消える日を座して待つしかないのか。記事は具体的な実践例として長崎県壱岐島勝本の漁師たちの生き方を紹介している。一本釣り。それが品質のよいマグロを持続的にとるため、彼らがきちんと守り続けている漁法だ。5トン級の船に一人ないし2人が釣りざおだけを持って乗り込み、時には200キロにもなるマグロを一匹ずつ釣り上げる。「魚を追い込んで、一網打尽に漁獲する『巻き網』漁とは違い、獲る量を調整でき、魚の獲りすぎを防ぐことができる」。さらに網と異なり一本釣りのため魚に与えるストレスが小さいことから、勝本で取れるクロマグロは業者に高い評価を受けているという。

 勝本の漁協は昭和30年代に網を使う漁法を全面禁止している。その結果、勝本の漁師たちは優良漁場と、豊かな漁業資源を守り続けていられる、ということだ。

 大きな網を使って根こそぎ魚類を取ってしまう漁法が、水産資源の持続的な利用から見てよいわけはない。子どもでも分かるようなことが多くの水産業者に受け入れられるのと、食卓から魚介類が一つ一つ消えていくのと、果たしてどちらが先だろうか。

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