レビュー

編集だよりー 2009年8月21日編集だより

2009.08.21

小岩井忠道

 坂田東一・文部科学事務次官の就任記者会見での発言の中に「私の個人的な体験だが、小学校から大学を卒業するまでずっと運動部に所属していて、スポーツの教育効果がいかに高いかというのは自らを省みて非常に感じている」というくだりがある(2009年8月21日ハイライト・坂田東一氏「教育・科学技術は国家のインフラ」参照)。

 特に大学時代、ボート部で大いに活躍したという氏の言葉だけに、説得力がある。

 一方、この日の毎日新聞朝刊総合面「09衆院選・私はこう見る・教育改革」に出てくる、尾木直樹・法政大学キャリアデザイン学部教授の言葉に考え込んだ。「『トイレにこもって食事する大学生がいる』という話を聞き、学生465人にアンケートしたところ、11人が『経験がある』と回答した」というのである。記事は、「一緒に食事する友人がおらず、一人で食べている姿を見られると『友人がいないことの証明』になるから」だという、と続く。

 編集者の出た高校は新制高校になってからも男女共学とは名ばかりで、ほとんどが男子生徒という時代が続いた。それでも運動部はいずこも部員不足で四苦八苦していたものだ。野球部で活躍した10年上の先輩に以前、興味深い話を聞いたことがある。野球部は県大会で優勝が当たり前だった世代だ。ところがこの先輩が2年生の時、夏が終わり3年生が引退した後に残った部員は全部で8人。これでは秋の大会に出られないので1年生の勧誘活動を必死にやり、ようやく2人を引き入れ、チームがつくれたという。この先輩たちも翌年の夏には県で優勝している。ただし、当時は北関東3県から1チームしか夏の甲子園には出られないので、北関東大会で涙を飲んだ。

 ちなみにこのとき、しぶしぶ入部して来た1年生の一人が、玉造陽二・外野手(後に西鉄ライオンズで活躍)で、玉造選手が3年生の時にようやく夏の甲子園大会出場を果たしている。

 さて、その野球部を初め、部員が集まらなくて困るという話を最近、聞かない。今や4割が女生徒だから男子生徒の数は昔に比べると大幅に減っている。運動部に入っている男子生徒の比率は昔よりはるかに高いということだ。

 一体これはいかなる理由によるのか。「運動部を初めとにかく集団に入っていないと不安だから、という理由で入部してくる生徒が多い。だから頭数は多いが、技量はもう一つという選手が少なくない」。数年前、野球部出身の後輩と話して、そんなことを言われたのを思い起こす。

 1年生から活躍していた野球部のエースだった同級生が高校卒業後、ことし初めて同窓会に顔を出した。「野球は好きだからやっていたものの、こそこそとやっていた気分だった」と話すのを聞いて、意外に思った同級生が多かったらしい。「お前どうだった」。わが方にも質問が来たので「そういえば運動部に入っているのは少数派だ、という思いが常にあったなあ」と答えたものだ。当時、多くの県立進学高の実態は、似たようなものだったかもしれない。

 少数派はどっちか。妙な話になってきたが、余計なことを考えず運動部に入りたがる生徒が増えていることは喜ぶべきことなのだろう。ただ、どうも気になるのは尾木教授の指摘だ。とにかく大勢の集団の中に入ることで安心する。そんな子どもたちが増えると、当然、そこからはみ出す生徒が確実に出てくる。そうした子どもたちが孤独感をますます強めて…。

 それなら、部員が集まらなくて各地の県立進学高の運動部が四苦八苦していた時代もそれなりによかった、ということだろうか。

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