レビュー

編集だよりー 2009年4月2日編集だより

2009.04.02

小岩井忠道

 素面(しらふ)で帰宅したので2、3の“家事”をこなした後、ウイスキーのお湯割りを飲みながら、NHKラジオをつけてみた。「落語らいぶ2009」という落語の番組がちょうど始まるところだった。

 どうも昔から聞き慣れた演芸番組とは趣が異なる。柳家喬太郎、柳家三三、立川談春、三遊亭白鳥が、それぞれ一人30分弱、たっぷりと聴かせるのだ。とうとう2時間付き合ってしまった。音楽は生に限る、と信じ込んでいるが、落語は別かもしれないと思い知る。なによりも、広いホールや劇場で聴くより、ラジオの方が一つ一つの言葉を聴き取りやすいのがありがたい。

 この日の出演者4人は、たまたま編集者がこの1、2年劇場やホールで聴いたことがある噺家ばかりである。三遊亭白鳥だけは独演会だったが、他の3人は、独演会のゲストや後輩の真打ち昇進記念会などへの“応援”出演だった。それが、ラジオの方がよいと感じた理由の一つかもしれない、と思い至った。主役が別にいる場で、自分の18番を本気でやろうなどとは思わないだろう。特に伸び盛りの噺家なら、と。

 柳家三三は、昔昔亭桃太郎独演会(3月24日編集だより参照)のゲストで出たときとは別人のようだった。創作落語しか聴いたことがない柳家喬太郎の古典落語も、堂々たるものに聞こえた。30分弱の時間を用意されれば、ラジオ番組の方が気合いも入るということが、十分あり得るのではないか。聴いている人間の数は、劇場やホールの比ではないし。

 放送にとって、4月は番組改編の時季である。ワールド・クラシック・ベースボール(WBC)の優勝で日本中が沸いた、とはいうものの、プロ野球のテレビの中継は視聴率の低落から激減するようだ。「落語らいぶ2009」のような番組が登場したのも、中波ラジオ局の番組編成が多様化を迫られているから、と考えると面白い。多分、浅読みだろうが…。

 たまたまWBCで日本が優勝した日の夜、高校の先輩に銀座のレストランでごちそうになり、さらに高級クラブをはしごするという分不相応の歓待にあずかった。レストランで隣り合わせになった彫刻家、澄川喜一氏(日本芸術院会員、元東京芸術大学学長)の話が、面白い。「昔から景気が悪い時は、仏像の展示会に人が集まる」というのだ。

 景気がいいときには、分かりやすい物質的快楽を。金回りが不安になると、昔懐かしい仏像に精神的なやすらぎや美を求める。思い当たるところ大いにありだが、日本人の行動形態も、簡単には変わらないということだろうか。

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