レビュー

編集だよりー 2009年3月24日編集だより

2009.03.24

小岩井忠道

 国立演芸場で昔昔亭桃太郎の独演会(18日)を聴く。三題噺とは落語の言葉だと初めて知る。最後の演目が「鰍沢」で、三遊亭圓朝が客からもらった3つの題を盛り込んで作った即興の噺ということだ。

 桃太郎の最初の出し物は、まくらに落語協会と落語芸術協会にかかわる話が長々と続き、何が面白いのか分からないのに弱った。一門会や独演会を聴くたびに、この種の仲間うちの話をよく聞かされる。円歌一門会のときは、女性の弟子が相変わらず師匠のセクハラまがいの行為を“暴露”していた。仲間や師匠をネタにする内輪話以外ほかにもっと笑える話はないのか、とも思うが、テレビ番組の笑点でも、毎回同じような光景が見られる。小言を言っても相手にされないだけだろう。

 落語の難しいところはその場で理解できない「オチ」が多いことだ。これじゃ、初めて聴いたら分からなくても無理はない。落語の本を読んでも、こんな噺が相当ある。最後の演目「鰍沢」では、一ひねりあって本来のオチの後に、桃太郎独自のオチが出てくるのだが、これは分かりやすくて笑えた。鉄砲で狙われて沢に落ち、ずぶ濡れなった主人公が岩によじ登り「濡れ衣だ」と言うのだ。しかし、本来のオチは意味を考える以前に何と言ったのかも聴き取れなかった。後で調べたら「たった一本のお材木(=題目)で助かった」という。例え、聴き取れたとしても編集者にはピンときたかどうか…。

 落語の後、同行の友人たちと近くの中華料理店に入る。実は大体が落語よりこちらの方が楽しい。その日は、ワールド・クラシック・ベースボール(WBC)第2ラウンド日本-韓国戦があった日。紹興酒を飲みながら、野球好きの友人夫妻とひとしきり韓国人と日本人の運動能力の比較などで盛り上がる。そのうち、バスケットボールの話になった。子どもの時、スポーツ万能だったと自負する奥方が「バスケットだけは駄目だった」という。

 バスケットならこちらは中学、高校と熱中した人間だ。まず「バスケットの体の動きは、日常の動きと違う。野球はボールを投げる時、利き腕の方の肩と腕を後ろに引く。走ったり歩いたりする時、左足を出したときは反対側の右肩、右手が前に出る。これらが普通の動きと言える。しかし、バスケットは逆。レイアップシュートのときもボールを持つ腕と肩が同じ側の足とともに前に出なければならない」。この日常と逆になる体の動きが自然にできるようになるまで少々、訓練の時間を要する。運動能力が高くてもすぐにはうまく動けないのは当たり前、と講釈したところ、さすが元スポーツウーマンだ。「なるほどナンバ走りね」。すぐピンと来てくれた。

 ナンバ走りとは、古武術研究家、甲野善紀氏によって有名になった体の使い方で「右足を出したときに右手を出し、左足を出したときに左を出す」動きを言う。昔、東海道などを走っていた飛脚がこの体の動かし方をしていたという。

 さて、「鰍沢」の解説などを読むうちに気がついたことがある。三題噺の手法は結構、編集者もコラムなどを書くときに使っているのではないか。ただし、客からもらった3つの題ではなく自分で勝手に選んだ題であるところと、出来上がりが、圓朝とはえらい違いだが。

 この編集だよりも3つの題「桃太郎」「紹興酒」「東海道」を盛り込んだ三題噺もどき、てなことになるだろうか。



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