「研究資金の統合的かつ効率的な運用」と「開発段階からの薬事相談、承認審査の迅速化・質の向上」を推進するための「先端医療開発特区」(スーパー特区)として、政府は18日、24件の研究開発課題を採択、公表した。
スーパーという名がついているのは、従来の「特区」のように行政区域を特別扱いするのではなく、重視するのはテーマ、ということのようだ。先端医療開発という目的から言えば、当然の考え方だろう。
今回の特区選定の考え方や手順については、5月23日に内閣府などが発表した「『先端医療開発特区』(スーパー特区)の創設について」の中で説明されている。その中で5つの重点分野が定められている。「iPS細胞応用」「再生医療」「革新的な医療機器の開発」「革新的バイオ医薬品の開発」「その他、国民保健に重要な治療・診断に用いる医薬品・医療機器の国際的な共同研究開発(がん・循環器疾患・精神神経疾患・難病等の重大疾病領域、希少疾病領域その他)」である。
今回スーパー特区として採択された中に、山中伸弥・京都大学教授を代表者とする「iPS細胞医療応用加速化プロジェクト」が入った。iPS細胞の特徴を生かした「新薬候補の開発」と、細胞移植治療の臨床研究システム化を図り、「臨床研究・治験を実施」という明確な最終目標を掲げている。
「再生医療」分野で採択された岡野栄之・慶應義塾大学教授を代表者とする「中枢神経の再生医療のための先端医療開発プロジェクト−脊髄損傷を中心に−」に対しても、患者をはじめ期待は相当大きいと思われる。交通事故などで脊髄に損傷を受け、下半身あるいは全身麻痺になった患者は多い。しかし、長年ばく大な研究費を投入してきたといわれる米国なども、これといった成果は得られていないのが現実だからだ。
その他いずれも国民の健康に直結する研究開発プロジェクトが並んでいる。ではなぜ、こうした分野の研究開発を進めるのに、わざわざ「スーパー特区」といったものを設ける必要があったのだろうか。政府の文書を読むより、10カ月ほど前、当サイトに掲載された井村裕夫・先端医療振興財団理事長(元京都大学総長)のインタビュー記事中の言葉を見てもらった方が分かりやすいかもしれない。
「臨床試験が、再生医療に限らず薬についても日本は非常に遅れてしまっている」、「新しい薬についても、他の医療についてみても日本は後進国になってしまった」、「世界でよく使われている薬100のうち、米国で使われていない未承認の薬は1つだけ。欧州では3つくらい。ところが日本は、なんと38の薬が使えない」、「がん治療でも日本では使えない薬、一応承認はされているが適応がまだとれていない『適応外』の薬が4割ぐらいある。日本のがん治療は、米国に比べ半分の薬で行われている」、「がん患者などはハワイまで薬を買いに行く、あるいは韓国に行くという状況になっている」…。(いずれも3月3日インタビュー「急を要する臨床研究体制の改革」第2回「『医療後進国』日本」から)
「先端医療開発特区」(スーパー特区)は、日本の医療再生に大きな役割を果たせるだろうか。