日本学術会議が、研究評価のありかたについて、多面的に検討した報告をまとめ、公表したことについては既にこの欄でも紹介した(2月29日レビュー「研究評価に日本学術会議の果たす役割は」参照)。この報告は「科学技術政策の推進のための司令塔」と称する総合科学技術会議(議長・首相、日本学術会議会長も有識者議員の1人)を、「第三者評価機関ではない」と位置付けるなど踏み込んだ内容を含む。
29日のレビューでは「では、日本学術会議自身はどういう役割を果たすべきだ、と考えているのだろうか」という問いかけを最後に記しておいたが、7日付の「科学新聞」記事が日本学術会議の“代わり”に、こたえてくれているようにも読める。次のような記述で始まる解説が載っている。
「今回の提言の背景には、日本学術会議が第三者評価を行う機関になろうという意図がある」
ただし、すぐ次のような厳しい指摘が続く。
「米国のナショナル・アカデミーズは、第三者評価を行う組織として、社会的に位置づけられており、同じアカデミーである学術会議がその任を担おうとする意欲は理解できるが、まだその機能を発揮できるまでに体制が整備されているとはいえない」
ナショナル・アカデミーズというのは、全米科学アカデミー、National Research Council、全米工学アカデミー、Institute of Medicine(あえて訳せば全米医学アカデミーか)の4団体を指す。核となっているのは、全米科学アカデミーで、よく知られているように南北戦争の最中、1863年にリンカーン大統領が署名して設立された非政府機関である。現在、会員約2,100人、外国人会員約380人で、このうち約200人がノーベル賞受賞者という組織だ。その後にできた他の3機関を併せて、ナショナル・アカデミーズと呼ばれる。
全米科学アカデミーのホームページによると、全米科学アカデミーの創立以来、米国の指導者たちは科学的、技術的なアドバイスをこれらナショナル・アカデミーズに求め、政府の枠外からのアドバイスが、しばしば政策決定に活かされている。National Research Councilは、こうした要請に実際に対応するための組織として作られた。
さて、日本学術会議が、まだ米国のナショナル・アカデミーズのような機能を発揮できるまでにはなっていない、という科学新聞の根拠は何か。
「事務局機能に大きな差があり、本当に第三者評価機関として活動できるかどうかには疑問が残る」ことに加え、「日本学術会議自体が政府機関であり、NPOであるナショナル・アカデミーズとは位置付けが異なる。一般市民から見た場合、同じ政府組織で第三者評価といえるのかどうかといった疑問も出てくるだろう」と記事は指摘している。
政府にとって大いに頼りになるシンクタンクであり、国民にとっては、政策が真に大多数の国民の福利に役立つものかどうかを客観的にチェックしてくれる機関。こうした役割を担うアカデミーが、日本にもできないものだろうか。
結局は、そのような社会の方が健全と考える人々が多数を占めるかどうかにかかっている、ということなのだろう。当の日本学術会議がその気になり明確に意思を発信することが、まずは必要に見えるが。