茨城県東海村に完成間近となっている大強度陽子加速器「J-PARC」を見学してきた。日本原子力研究開発機構・高エネルギー加速器研究機構J-PARCセンターの広報対応委員を委嘱され、その第1回委員会が開かれたためだ。
J-PARCについては現在、永宮正治センター長のインタビュー記事(「目指すは国際的研究施設・多目的加速器『J-PARC』の魅力」第2回「高まる海外からの関心」参照)を連載中だが、編集者も実は最近までほとんど知識がなかった。日本が研究を主導してきたニュートリノを人工的に作り出す機能を初め、数々の特長を持つ大型研究施設で、海外からの関心も非常に高い。そんなことを知っている人などほんの一握りではないだろうか。高い国費を投じて建設した施設の広報をきちんとしたい。そのために外部の人間の意見も十分聞いて、というセンターの姿勢は当然といえるだろう。
「環境整備も含めた総合的な国際化戦略のために、J-PARCセンター内に広報担当者を配置し、国際的な広報活動を図っていくことが必要」。科学技術・学術審議会J-PARC評価作業部会からそんな注文をつけられたこともあり、広報セクションは4月に新設されたそうだ。
鈴木國弘・広報セクションリーダーから、広報セクションの体制について説明を受ける。日本原子力研究開発機構、高エネルギー加速器研究機構の職員3人(うち2人は運営推進支援セクション兼務)、OB嘱託1人、派遣1人、業務委託など2人の7人態勢という。
続いて広聴・広報活動の現状と今後の活動方針について。「視察見学者は前年同期比約1.3倍のペースで増加中。4月から8月までの視察件数は221件、4,190人に上った。特に7,8月はそれぞれ1,000人を超えた」。視察・見学の受け入れは総務課が窓口で、総務課から要請があった視察・見学希望は原則としてすべて受け入れてきた、とのこと。見学案内は広報セクションの職員2人が交代で担当し、見学者が重複したり、研究者や外国人の場合は関係者に応援を要請することもある、という。編集たち各委員は会議の後、鈴木リーダーに施設内を案内してもらったが、参加者1人1人にイヤホンを渡し、説明の声がだれにも鮮明に聞こえるような配慮をするなど、十分、及第点をとれるという印象だった。
さて、問題はこれからだ。「見学者の増加に伴い、案内を担当する人員の拡充を図る」という一方で、「案内の人員が不足する場合は、一般見学に対応する日を限定(例えば週3日程度に)することを要請する」というのである。
これはちょっとまずいのではないだろうか。鈴木リーダーは高校の後輩だ。ここは一つはっきり言ってもいいだろう。「自分たちの事情を最初に考え、ここまでしかできない、という考え方は、とりわけ広報のような仕事にとってはまずい。自分たちの都合より、お客本位で考えてもらわないと。見学の制限などは考えず、来る人はすべて受け入れ、むしろ県北を訪れる観光客には必ず見てもらう場所にするというくらいの発想に立つべきだ」
人1人を増やすのがいかに大変か、分からないわけではない。だが、関心を持ってくれる人、あるいは見学した後、大いに関心を持ってくれる可能性がある人々を自ら絞ってしまうという対応はいかにももったいないではないか。
東海村に来る時の常磐線車内で旧知の地元紙、茨城新聞の幹部とばったり顔を合わせた。その幹部氏が言っていた。「最近も全国紙に特集記事が載っていたが、周りから見ればまだまだ敷居が高い」