レビュー

日本の医療の危機的状況

2008.06.30

 ニュースでも紹介した日本学術会議の要望「信頼に支えられた医療の実現−医療を崩壊させないために−」は、危機的な状況にある日本の医療の実態を詳しく示しているように読める。

 要望の第1に挙げられている「医療費抑制政策の転換」ひとつとっても簡単な話ではなさそうだが、日本の医療にはさらに多くの難題があることが分かる。

 要望の中に「1960 年代当時、日本を含めて多くの先進諸国の病院数、ベッド数、平均在院日数などの指標には、現在ほど大きな差はなかった」という記述がある。今はそうではなくなっているということだ。どこがどう違ってしまったのか。

 「その後、日本を除く大部分の先進諸国では、病院機能の急性期医療への集中と平均在院日数の短縮を行い、量的拡大よりも医療の質に重点を置く医療制度改革を推進してきた」。しかし、日本は「経済の状況が良かったこともあって、病院数の拡大や入院ベッドの増大がそのまま進行し、他の先進諸国とは異なる医療提供体制が形成されることとなった」というのである。

 「医療の量とアクセスの面」は確かによくなった。しかし、「日本の医療の長所であるアクセスの良さは、一方で拡大解釈される傾向にあり、病院医療の質の維持に問題が生じている」というわけだ。

 「アクセスに関する要望が行き過ぎて、何時でも、何処でも、誰でも、『状態を問わず、任意の時に行けば、すぐに診療を受けられる』のが良い医療体制であるとされてしまうという問題である。救命救急センターは、本来重症患者の治療に専念することがその役割であるが、そこに次々に軽症の患者が押しかけると、本当に治療を必要としている患者を引き受けることができなくなる」

 救急病院は夜間になると、熱が出た程度の患者が次々に訪れ、数少ない医師は不要不急の患者への対応だけで忙殺されている。こうした記事が、最近、よく新聞に載るようになっている。実は、こういう状態は、都心では数十年からよく見られる現象ではなかっただろうか。それが今や日本全国あちこちで見られるようになっているということだろう。

 医療費抑制政策の転換ができたとしても、医療にかかわる人的、物的資源が限られていることに変わりはない。恩恵を受ける側もそれを理解しない限り「信頼に支えられた医療の実現」というのは、おそらく相当に難しいのではないだろうか。

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