絶滅のおそれが高いスマトラトラの毛皮や歯、つめ、骨などがインドネシアの市場で売られているという報告書を野生動物の取引を監視しているトラフィックが公表した。
スマトラ島にある28の都市や町で2006年に行った調査の結果、貴金属店、土産物店、中国の伝統薬店、骨董品店など小売店の1割で、これらトラの部位が売られていることが分かった。店頭で売られているトラの部位から、これだけで23頭のスマトラトラが殺されたと推定されるという。
スマトラトラは、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリスト絶滅危惧種の中でも最上位に相当する近絶滅種(CR)に入っている。野生動物の国際取引を規制するワシントン条約でも「絶滅の恐れのある種で取引により影響を受けるもの」(付属書1)とされている約900種の一つに含まれている。インドネシア政府の国内法でも保護動物に指定されているおり、昨年、バリ島で開かれた気候変動枠組条約の締約国会議でも、インドネシア大統領が「スマトラトラ保護戦略と行動計画」を発表して保護の取り組み強化を内外に表明したばかりである。
にもかかわらずスマトラトラ絶滅の危機はなぜ、依然続いているのか?
トラフィック、世界自然保護基金(WWF)、IUCNの共同プレスリリースは、インドネシア森林省生物多様性保全ディレクターの次のような苦悩の声を明らかにしている。
「私たちは野生生物取引の問題に取り組まなければならない。ただ、私たちはほかにも多くの重大な問題に直面している。不幸にもそれがスマトラトラの個体数減少につながっている。私たちは、スマトラ島における土地利用の転換、生息地の分断、人とトラの軋轢、貧困といった問題と悪戦苦闘している。土地利用の転換と生息地の分断は、トラを人の居住地に近づけ、人とトラの軋轢の問題を生んでいる」
スマトラトラの受難は、インドネシア政府の怠慢が原因と切り捨てられるだろうか。野生動物が人の居住地に近づくようになった結果、農作物への被害などが深刻に、という事態は、日本にも起きているからである。「土地利用の転換と生息地の分断は、トラを人の居住地に近づけ、人とトラの軋轢の問題を生んでいる」というスマトラ島に見られる構図と、日本で起きている実態とは本質的には変わらないのではないだろうか。日本の場合、その根底には、山林の荒廃があり、そしてその背後には…。