レビュー

学校教育における「環境」と「地学」の位置は?

2007.12.19

 環境問題に関心の深い研究者、教育関係者などが参加する公開シンポジウム「環境教育 明日への提言」が、7日、日本学術会議で開かれた。

 シンポジウムの主催者は、日本学術会議の環境学委員会環境思想・環境教育分科会で、主催者から事前に提言案が参加者に示されていた。「学校教育に教科として『環境』を位置付け、専門教員を養成する」ことを柱とし、さらに「幼児、小、中学生に自然体験を徹底させるべきである」ことも盛り込まれている。結局、この日の議論で提言案が合意を得るまでには至らなかったが、根底にある現状認識については参加者たちの多くが同意していたように見える。

 大人(先生)も子ども(生徒・児童)も自然体験が恐ろしく希薄になっている、という事実に対してである。

 環境という科目をつくるべきか否か、という議論が学術会議の場で交わされている一方、学校教育の場で長い歴史を持つ既存の科目が存亡を問われかねない状況にあることを訴える報告が、「地質ニュース」(産業技術総合研究所・地質調査総合センター編、実業公報社)12月号に載っている。筆者は、開発などによって「危機にある地形」や「保存すべき地形」をまとめた「日本の地形レッドデータブック」(古今書院)の編者でもある小泉武栄・東京学芸大学教授だ。
小泉氏によると、地球環境問題に加え、地震をはじめとする大規模自然災害への対策などを考えても、政治や経済に加え、地学や自然地理学の研究の進展が大きな役割を果たすのは明らか。にもかかわらず地学研究者の層はますます薄くなっており、特に野外で調査にあたる地質学者や地形学者は、後継者を育てることすら難しくなっている、と警鐘を鳴らしている。

 研究者の不足以上に大きな問題として小泉氏が挙げているのが「学校教育における地学関連の教育の不振」だ。1960年代に始まった経済の高度成長は、安価な原料を海外から大量に輸入する傾向を強め、それによって国内での鉱産物生産の必要性は小さくなり、学校教育における地学の軽視、小中学校の教科書における地学、自然地理関係の内容の著しい減少につながった、と同氏は言う。

 氏によると、地学教育の地盤沈下に比べると環境教育の方がよほど重視されているということになるようだ。「環境教育は、学校教育におけるすべての教科で、機会をとらえて実施することになっている」
ただし、こちらの方にも問題はある、という。こうした環境教育の結果「子供たちは 地球環境の問題点ばかりを、繰り返し学習することになってしまった」。

 小泉氏は「小学校や中学では、地球環境問題の学習より先に、地球や自然のすばらしさを学習すべきである」と主張している。地球環境問題についての勉強は、「地球のすばらしさを発見させ、子供たちはそれによって地球に生まれてきたことの幸せを感じることができ」た後に行った方がよいというわけだ。

 生徒・児童が地学を教えられる機会が激減していることの影響、それに対する対応策を考える場合、「環境」を独立の科目にすべきだという議論とのすりあわせ、あるいは協働といったものは考えられないものだろうか。「大人(先生)も子ども(生徒・児童)も自然体験が恐ろしく希薄になっている」という危機意識は、両者に共通すると思われるからだ。

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