レビュー

編集だよりー 2007年7月20日編集だより

2007.07.20

小岩井忠道

 外で仲間と群れて遊ぶことが子どもの成育にとっていかに大事か。子どもと遊び空間を研究テーマにしている環境建築家、仙田満氏が委員長を務めた日本学術会議の委員会報告(7月20日ニュース「子どもを元気にする国づくり宣言を提言」)が、ようやく公表された。昨年、氏にインタビューして記事を当サイトにも掲載している。編集者にとっては、心待ちにしていた報告書だ。

 仙田氏にインタビューした際、少々ショックだったのは「1戸建て住宅を奨励している国というのは、世界で米国と日本くらい」という指摘である(2006年12月6日インタビュー「こどもに安全で楽しい遊び場を!」の3回目「人間関係、想像力、創造力も遊びから」参照)。幼少時、劣悪な集合住宅に住んでいた負い目もあってか、ある時期、1戸建て住宅にあこがれた覚えがあるからだ。ついに1戸建ての持ち家というのには縁がなかったし、いまでは全くそんな気もないが。

 「理想的には、エレベーターがない4階以下の共同住宅が、日本には最もふさわしい。共同住宅で、それも中庭が子どもたちの遊び場になっているような」という仙田氏の指摘には、すっかり共鳴してしまった。あれほど多くの日本人が、戸建て住宅を望んだのは、高度成長期という異常な時代の産物ではなかっただろうか、と。

 氏の話を聞いた後、同年代の知人の話に思わずニンマリしたことがある。「昔は住宅街をバスが通る計画を住民全部で反対したが、いまでは皆、路線バスが近くまで来てくれれば、と思うように。バス会社に頼んだら断られた」。そりゃあ、高齢者ばかり残った1戸建てばかりの住宅地にバスを通したって、採算が合うわけはない。

 この知人のように郊外の元高級住宅地で不便を感じる高齢者たちが、誘い合って持ち家を売り払い、仙田氏が推奨する都心の「4階以下の共同住宅」に住むというのはどうだろう。地下は車がなければ生きられない人たちの駐車場にし、無論、中庭は安全な遊び場として周辺の子どもたちや若い母親たちに開放する。その姿を眺めながら、自分も子どものころはよく外で遊んだものだ、などと…。

 こんな時代が来ないものだろうか。

関連記事

ページトップへ