レビュー

編集だよりー 2006年11月30日編集だより

2006.11.30

小岩井忠道

 当サイトの編集者は2人とも似たような道を歩んで来たせいか、好みにいくつか共通点がある。日経新聞「私の履歴書」欄の愛読者というのもその一つだ。同僚編集者が推奨するここ数年の登場者のベストワンは、稲尾和久氏ということだが(11月4日編集だより参照)、当編集者に「一番痛快だった人は」と問われれば、ドラマーのジョージ・川口氏となるだろうか。

 さて、味の素会長・江頭邦雄氏の「私の履歴書」が終わった。経済記者でなかったので、企業人との付き合いは貧弱だが、味の素社の広報態勢には感心した覚えがある。ということもあり、今月も相変わらず興味深く読ませてもらった。

 だいぶ前になるが、「私の履歴書」に連載中の某社の社長(会長だったかも)の記事が、毎回、面白いため、ライバル会社の営業担当は、早くその月が終わるのを願った、という話を耳にしたことがある。大衆消費品(アルコール飲料)の会社だったので、「私の履歴書」連載が、商品の売れ行きに大いに影響しそうだ(あるいは現に影響があった)から、という話だった。

 江頭氏とこの経営者の2人には、食に関係する会社の文科系出身のトップ(だった)という共通点がある。「私の履歴書」の中には、ある時期、労働組合(幹部)と丁々発止のやりとりをした場面が、それぞれ出てくる。

 味の素は、日本の企業の中でも研究開発志向が強く、実際に毎年、多くの優秀な理系出身を採用していると思われるが、理系出身の人間は、大体が労務対策のようなことを得意とはしないだろう。

 「日本の技術者は使い捨て」という引野肇氏(東京新聞・中日新聞科学部長)の記事がオピニオン欄に載っている。

 5年、10年あるいは数十年先のその企業の屋台骨となるような研究開発成果をあげることは、もちろん大事だ。

 しかし、現実の人事となると、労務対策や、他社との合併交渉のような目先の課題で、辣腕を発揮した人の業績の方が重要視され、そうした人が好ましい経営者とみなされる。高度経済成長期、労働組合の力が強く、経営側が大きなエネルギーを労務対策に注がなければならなかった時期などはとりわけ、ということではないだろうか。

 常にそれでいいかどうか、が問題なのだろう。

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