レポート

未来への生き方、考えるきっかけに 日本科学未来館が展示を大刷新

2023.11.22

草下健夫 / サイエンスポータル編集部

 体験重視の展示施設として知られる日本科学未来館(東京都江東区)が常設展示を大規模にリニューアルし22日、一般公開を開始した。環境問題を身近なものとして捉える探究、ロボットと暮らす未来社会の探検、ゲームを通じた老化の疑似体験など、来館者が新しい科学の知見や技術を身近に感じながら、未来の社会や生き方について考える構成となった。新展示を記念し、26日まで入館料を無料としている。

新展示の一つ「プラネタリー・クライシス これからもこの地球でくらすために」=21日、東京都江東区の日本科学未来館
新展示の一つ「プラネタリー・クライシス これからもこの地球でくらすために」=21日、東京都江東区の日本科学未来館

「未来の社会課題、最新科学を通じ体験を」

 刷新したのは、同館5階と3階の常設展示ゾーンの一部。新展示は4つで(1)海面上昇に悩むフィジーの暮らしから、私たちと環境問題のつながりをひもとく「プラネタリー・クライシス これからもこの地球でくらすために」、(2)ロボットと触れ合って最新技術を知る「ハロー! ロボット」、(3)未来の街で起こるトラブルを解決しながら、ロボットとの付き合い方を考える「ナナイロクエスト ロボットと生きる未来のものがたり」、(4)目や耳、運動器、脳の老化を疑似体験し、その仕組みや対処法を知り、老いについて考える「老いパーク」。同館の大規模なリニューアルは2016年以来、7年ぶりとなった。

新展示の狙いを説明する浅川智恵子館長
新展示の狙いを説明する浅川智恵子館長

 一般公開に先立ち21日、報道陣に公開した。浅川智恵子館長は「今だけでなく、未来に私たちが直面するかもしれない社会課題を、最新の科学的知見を通して体験いただくよう工夫した」と説明した。新展示の特徴として(1)他の来館者と意見を共有する仕組みを設けたこと、(2)STEAM(スティーム=科学、技術、工学、芸術、数学の横断により、問題発見や解決能力の向上を狙った教育)に活用できるように制作したこと、(3)遠隔地から一部の展示内容に参加できるよう準備を進めていること、(4)一部展示に国産木材を使うなどして、サステナビリティー(持続可能性)を踏まえたこと、(5)障害のある人の意見を採り入れ改良したこと――を挙げた。

 なおリニューアルに伴い、常設展示「ともに進める医療」「アナグラのうた 消えた博士と残された装置」「ビジョナリーラボ」「アンドロイド 人間って、なんだ?」は、既に公開を終了している。

海面上昇に悩むフィジー、現地の人と“対面”

 1時間半の報道公開で、筆者がまず向かったのは5階の「プラネタリー・クライシス」だ。導入部のシアターでは、南太平洋の島国フィジーを訪れる疑似体験ができる。美しい自然に触れながら現地の人々に会い、海面上昇や、激しいサイクロンなどの影響を受けている実態を生々しく語ってもらう。フィジーの深刻な状況は報道で知られてはいるものの、日本で暮らしていると正直、実感としてはつかみにくい。そこでシアターは、迫力のある風や光、音の効果により、あたかも現地にいるかのようなリアルな臨場感を味わえる仕掛けとした。映像越しとはいえ現地の人と向き合うことで、「他人事ではない」という感覚が芽生えた。

海面上昇に悩むフィジーの人々と“対面”
海面上昇に悩むフィジーの人々と“対面”

 シアターを出ると、気候変動についてのパネル展示が続く。気温上昇は人間活動で排出される二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスが、主な原因であると説明。国や地域別のCO2排出量は、中国を筆頭に米国、インド、日本などが多いという。国単位だけでなく、人口当たりの排出量も直観的に分かるよう表現が工夫されており、日本に暮らす自分もここに関わる一人なのだと感じさせられる。フィジーを含む太平洋島嶼(とうしょ)国の排出量は、こうした国々に比べ、ごくわずか。ここで、シアターで“対面”した人々のことを思い出した。

 このほか、食卓の会話から環境問題を考える展示、消費生活を支える発電などの映像説明、環境を守るために活動する人々の紹介、来館者によるアイデア投稿のコーナーなどで構成している。展示には、伐採してからの輸送距離の短い国産木材、通常は使いにくい端材などを採用し、また将来の展示終了後には再利用するという。いわば「展示の企画そのものが展示になっている」点もユニークだ。

「ケパラン」誕生、育ての親は来館者!?

 残る3つの新展示は、いずれも3階にある。未来館といえばかつて、二足歩行ロボット「ASIMO(アシモ)」の実演が見られるスポットとしても人気だった。そのせいか、個人的には“未来館といえばロボット”というイメージも根強い。今回の展示は、ロボットが未来社会を支えるパートナーであることをより強く打ち出し、人とのより良い関係を考えさせるものとなった。

ケパランが、未来館の新たな人気者に?
ケパランが、未来館の新たな人気者に?

 「ハロー! ロボット」では、コミュニケーションを楽しむロボットや、研究の先端にあるロボットを展示している。当初はソニーグループの犬型「aibo(アイボ)」や産業技術総合研究所のアザラシ型「パロ」など、見覚えのあるロボットも含めて並んでいる。定期的に更新していくというので、訪れる度に新しいロボットと対面できるかもしれない。

 注目は、今回デビューした未来館オリジナルのロボット「ケパラン」だ。空色のかわいい姿で滑らかに体を動かしてみせている。現時点では「こんにちは」「ウインクして」などの文字が入ったうちわを見せると、ポーズを取ってくれる。今後、声や表情などの感情表現、呼びかけに対する振る舞いのパターンを追加し、“成長”させていく。どう成長させるかは、来館者の意見を踏まえながら決めるという。来館者が育ての親であるともいえるケパラン。未来館を象徴する人気キャラクターとしても、成長しそうだ。

 ロボットがテーマの展示が、もう一つ。「ナナイロクエスト」では、貸し出されるタブレット端末を手に仮想の未来の街「ナナイロシティ」を探検する。課題を解決していきながら、ロボットとの望ましい付き合い方を考える。筆者も、よその記者とグループを組んでめぐってみた。ネタバレになるので細かくは書かないが、将来、ロボットに何をどこまで頼むのか、どんな仕事はやっぱり人間がやるべきなのか…。子供だけでなく、大人も考えさせられる。

ロボットとの付き合い方を考える「ナナイロクエスト ロボットと生きる未来のものがたり」
ロボットとの付き合い方を考える「ナナイロクエスト ロボットと生きる未来のものがたり」

日頃考えたくもない?テーマをあえて考える

 老いに関する展示は、世界的にも珍しいという。その名もズバリ「老いパーク」。目と耳、運動器、脳のそれぞれの老化を、ゲームを通じて楽しみながら疑似体験できる。老いの仕組みや対処法の最新研究、研究開発中のロボットによる支援技術などを紹介。未来館の担当者は「やがて自分の身に起こることとして、あるいは既に実感していることとして、向き合い、考える展示になれば」と話した。

 日頃18歳と自称している筆者も含め、多くの人にとって老化は、心理的にあまり直視したくないテーマだ。多くの人に見てもらいたいはずの展示施設が、それをあえて常設展示にしたのは大英断といえるだろう。ちなみに、展示入り口付近に置いてあったリーフレット「老いパークガイド」にも、ある大胆な仕掛けが施されていた。

ゲームを通じて老化を疑似体験する「老いパーク」
ゲームを通じて老化を疑似体験する「老いパーク」

 新展示には来館者から感想や問題解決のアイデアなどのコメントを得て、それを後の来館者が確認できる端末などの工夫も備わっている。コメントの蓄積を通じ日々、展示を充実させていく双方向の取り組みといえる。また体験重視という特徴ゆえに、同じ展示でも訪れる度に、少し違った感想を抱くかもしれない。見学の仕方はもちろん自由で、お台場散策の足でフラリと立ち寄ってみるのもいい。が、何か自分なりのテーマを考え、メーンで楽しむ展示を決めておくなどして訪れると、考えや知識がより深まりそうだ。

展示を大規模に刷新した日本科学未来館
展示を大規模に刷新した日本科学未来館

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