レポート

《JST主催》市民と科学者の壁を壊そう サイエンスアゴラで専門家VTuberたちが白熱トーク

2022.11.29

宇佐見靖子 / SDGsライター

 VTuberとは、バーチャルYouTuberの略称だ。キャラクターアニメーションや3Dモデルといったアバターを自分の分身にして、YouTubeで情報発信をしている。サイエンスアゴラ2022(科学技術振興機構〈JST〉主催)のオンライン企画「隣り合う未来 ~市民と科学者の垣根を越えて~」では、科学や工学、法律分野で活躍する「専門家VTuber」が登場。豊富な知識を持つ個性あふれるキャラクターたちが、市民と科学者の垣根を超えるための新しい形のコミュニケーションを目指し、本音トークで熱く語り合った。

市民と科学者の垣根を越えようとVTuberたちが語り合った(科学Vtuberチームもん☆ぱるなす提供)
市民と科学者の垣根を越えようとVTuberたちが語り合った(科学Vtuberチームもん☆ぱるなす提供)

古生物系、工学系、弁護士にイラストレーターも

 今回の企画に登場したのは、YouTubeで科学や教育に関わる発信をしている「科学Vtuberチームもん☆ぱるなす」の面々だ。化石や恐竜などについて解説する古生物系や、大学・高専レベルの電子・情報・通信分野の学習動画を配信する工学系のほか、身近な法律問題について紹介する現役弁護士も。また、イラストレーターといった学問を専門としないメンバーもいる。

 サイエンスアゴラ2022のテーマ『まぜて、こえて、つくりだそう』の通り、専門家と非専門家、それぞれのVTuberが、市民と科学者、文系と理系という現代の科学が抱えるさまざまな「壁」の超え方、壊し方について、まずは自分たちの活動を紹介しながら考えた。

 情報工学を専門に研究しているめるさんは、情報システムを作ることの楽しさを広めるため、視聴者と一緒に学習する動画を配信する活動をしている。この分野を一般市民に身近に感じてもらうにはまだまだ壁を感じているものの、市民と専門家の距離を縮めるためにも、さまざまなコミュニティーや年代にリーチできるVTuberの可能性を指摘した。

 弁護士のながのりょうさんは、法律相談のポイントを紹介するなど、弁護士を身近に感じてもらう活動をしている。多くの人が適切なタイミングで弁護士に相談することができていないなど、科学と同様に法律分野でも、市民との距離に課題があるという。VTuberとして弁護士の仕事を可視化することで、より司法アクセスがしやすくなると期待する。

配信に登場した個性あふれる「科学Vtuberチームもん☆ぱるなす」チームの面々(科学Vtuberチームもん☆ぱるなす提供)
配信に登場した個性あふれる「科学Vtuberチームもん☆ぱるなす」チームの面々(科学Vtuberチームもん☆ぱるなす提供)

市民が専門分野をもっと身近に感じるには

 一般市民が科学のような専門分野をもっと身近に感じることができるようになるには、どうしたらいいのだろうか――。まずは、非専門家のクリエイターとして科学に関する漫画を制作しているAyaneさんが「身近な疑問をどうやって専門家に伝えればよいのか」という質問を投げかけた。

専門家に質問するってやっぱり敷居が高い? 非専門家を代表して漫画家のAyaneさん(右上)が問いかけた(配信映像から)
専門家に質問するってやっぱり敷居が高い? 非専門家を代表して漫画家のAyaneさん(右上)が問いかけた(配信映像から)

 一般市民にとって、不思議に思った疑問をどこに質問したらいいのか、またこんなことを聞いてしまってもいいのかと考えると、専門家に尋ねるのは敷居が高いと思ってしまいがちだ。

 その問いかけにめるさんは、自分たちも別の専門分野について質問するときは躊躇する場合もあるとし、「ウェブ上の勉強会サイトを活用するのもよいのでは」とアドバイス。ただ、いきなり参加するのは勇気がいるかもしれないので、自分たちのような専門家にぜひアクセスしてほしいと話した。配信中にコメントで気軽にやりとりができるなど、VTuberは市民が専門家に質問しやすい場を提供しているようだ。

専門家がもっと市民に近づくには

 次は専門家側から、古生物学系の白亜マウルさんが声を上げた。「市民と学問の距離を縮めるにはどうすればよいか」という問題提起だ。

専門家はもっと市民に近づきたいと思っているが…どうしたらいい? 白亜マウルさん(右上)は日々感じている悩みを口にした(配信映像から)
専門家はもっと市民に近づきたいと思っているが…どうしたらいい? 白亜マウルさん(右上)は日々感じている悩みを口にした(配信映像から)

 この問題に対し、法律系のじゃこにゃーさんは自身の経験から「学問そのものだけを説明しても距離は縮めにくい」と答えた。その上で「学問プラス付加価値、例えば動画やイラストを活用することで、市民と学問の距離を縮めることができるのでは」と提案。学問に親しみやすさを加える点でも、VTuberの存在は重要だ。

VTuberが市民と学問の距離を縮める鍵になる(科学Vtuberチームもん☆ぱるなす提供)
VTuberが市民と学問の距離を縮める鍵になる(科学Vtuberチームもん☆ぱるなす提供)

双方向のコミュニケーションが評価された

 配信後、視聴者からは「市民と科学者の双方向のサイエンスコミュニケーションについて、実例も聞けてよかった」「VTuberが持つ可能性、それに科学が加わると未来はどうなるのか、とても興味深かった」といった声が寄せられたという。電子工学などが専門の足立千鳥さんは「視聴者が共有してくれた問題意識について引き続き考えながら、今後の活動を続けていきたい」と意欲を示した。

 その他のもん☆ぱるなすのメンバーにも、いろいろな気付きがあったようだ。じゃこにゃーさんは「法律以外の分野でも専門家と市民の『壁』という共通の問題意識があって、それに対し多角的な視点から解決の糸口を探ることができたのではないか」と振り返った。学びの楽しさを伝える活動を展開する茜ちえりさんは「専門家と非専門家をつなげることで、学問の楽しさに気付くきっかけになれば嬉しい。私たちの日ごろの配信にも足を運んでほしい」と呼びかけた。

 「VTuberの活動を始めて以来、科学とVTuberをどうやって組み合わせようか考え続けてきた」と、企画の進行役を務めた白亜マウルさんは言う。「今回の配信中、視聴したさまざまな専門家側からもVTuberの活動に興味を持ったという声が聞けた。今後、それぞれの専門分野の普及をテーマにした専門家VTuberも増えてくるかもしれない」。VTuberのさらなる活躍に期待を込めた。

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