再生医療支援人材育成ワークショップ「iPS細胞を医療につなぐ」(2014年10月17日開催)より
再生医療を進めていくには、研究者だけでなく、多様な人材が欠かせない。そうした再生医療を支える人材養成の必要性を訴えるワークショップ「iPS細胞を医療につなぐ」が10月17日、東京医科歯科大学の鈴木章夫記念講堂で開かれた。若い学生や大学院生らを中心に約400人が参加し、iPS細胞の発見者でノーベル賞受賞者の山中伸弥京都大学教授らの講演に耳を傾けた。京都大学と大阪大学、東京医科歯科大学が参加する再生医療支援人材育成コンソーシアム準備委員会が主催し、日本再生医療学会、科学技術振興機構が共催した。再生医療を支える人材の養成に号砲を鳴らす場となった。
まず、文部科学省の山脇良雄・大臣官房審議官があいさつで「再生医療への取り組みは、再生医療等安全性確保法が11月25日に施行されて新しいステージに移る。専門知識を持った人材の育成がますます必要になる」と報告した。
次いで、滲出型加齢黄斑変性の患者に対してiPS細胞の世界初の臨床研究を始めた髙橋政代・理化学研究所 発生・再生科学総合研究センタープロジェクトリーダーが講演した。臨床研究に関して「長い間、数えくれないくらいたくさんの人々に協力してもらった」と苦労話から始めた。患者の皮膚の一部を2013年に採取してiPS細胞を作り、それから患者の網膜下に2014年9月に移植するまで10カ月、「息の詰まるような作業の連続だった」という複雑な工程を振り返った。「培養スタッフが優秀で、きれいで安全性の高い移植用の細胞シートができあがった」とテクニカルスタッフの職人芸をたたえた。「チームづくり、人材づくりに苦労した。再生医療が発展するには、人材が基礎的に重要だ」と強調した。
続いて、細胞シートの心臓への移植で重症心不全患者の治療に取り組む澤芳樹・大阪大学大学院医学系研究科教授が講演した。澤教授らの大阪大学心臓血管外科チームは2007年から30例以上の細胞シート治療を実施し、好成績を挙げている。より重症な患者に対してiPS細胞から心臓細胞シートを作って移植する治療法を開発中で、2017年ごろの臨床研究の開始を目指している。「この治療には1人の患者に10億個の細胞が必要になる。iPS細胞と細胞シートは日本の誇るべき技術で、医療や産業への展開が期待される。ただ、承認された再生医療の品目はまだ2品目にとどまり、欧州や韓国より少ない。再生医療への期待だけでなく、行動を起こさないといけない。臨床培養士認定制度も構築していく」と訴えた。
最後に、山中伸弥・京都大学iPS細胞研究所所長・教授が「iPS細胞がつくるあたらしい医学」と題して講演した。「私たちの京都大学iPS細胞研究所はiPS細胞の医療応用が最終目標だ。iPSによる再生医療はたくさんのお金と時間がかかる。より多くの人を治療できるように、ボランティアのHLAホモドナーの細胞を基に医療用iPS細胞ストックづくりを始めた。細胞調整施設のクリーンルームで、治療に使える高品質な細胞を作る。細胞製造などの工程を担う人材は簡単には育たない。どう確保するか、非常に大切だ」と指摘した。さらに人材育成の3本柱として「教育と公的な資格、適正な雇用」を挙げて「再生医療の実現に向けて、この3つの柱の1つを欠いても駄目だ」と人材育成の環境整備を提言した。
講演の後、再生医療支援人材育成コンソーシアム準備委員会の赤澤智宏・東京医科歯科大学教授が司会して、3人の講演者を交えてパネルディスカッションを行った。細胞培養などを行う人の適性やトレーニングが議論され、澤芳樹教授は「手先が器用で、きれいに培養できる人は向いている」と話した。雇用の安定について山中伸弥教授は「頑張っている人には安定したいす(ポスト)を用意したいが、競争的な資金の研究の場合、安定的ないすが少ない」と悩みを明かした。髙橋政代プロジェクトリーダーは「新しい分野の再生医療には、医療を根本から変えていく可能性がある。そのためのチャレンジングな力を若い人がつくっていってほしい」、澤芳樹教授は「最終的な目標は産業化なので、企業ができる限り早く参加してほしい」とそれぞれ語った。山中伸弥教授は「日本の若者は大学か大企業に興味を持ち、ベンチャーに抵抗がある。ベンチャーで頑張るのもひとつの生き方だ」と助言した。再生医療の研究は、臨床で細胞培養する人がいないところから始まった。再生医療を支える人たちを育成していく諸課題を具体的に示した講演と討論だった。
閉会のあいさつで、共催した科学技術振興機構の中村道治理事長は「技術をきちんと守るには、高度な人材、高く評価される資格が必要になる。日本の戦後の奇跡の復興は現場力があったからだ。再生医療で再び現場力が問われている。大学や産業界などがみんなで力を合わせてやっていこう」と締めくくった。
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