レポート

科学のおすすめ本ー リスク危機マネジメントのすすめ

2013.03.26

推薦者/サイエンスポータル編集委員

リスク危機マネジメントのすすめ
 ISBN: 978-4-621-08564-6
 定 価: 1,500円+税
 著 者: 宮林正恭 氏
 発 行: 丸善出版
 頁: 172頁
 発行日: 2013年1月30日

東日本大震災と福島第一原発事故、ギリシャ危機から始まるユーロ危機が、この本を著す直接のきっかけという。特に日本について、厳しい指摘がたびたび出てくる。

「福島第一原発事故における東京電力の対応、および日本政府の対応を考えてみると、多くの点で危機(クライシス)におけるマネジメント上問題があったといえる」

「リスク危機マネジメント」は著者の造語。従来、別のものとして考えられていた「リスクマネジメント」と「危機管理(クライシスマネジメント)」を一体として捉える必要がある、との考えに基づく。一体として捉える必要があるというのは、「両者は重なり合う部分が多く、また現代社会の企業経営においては、あえてリスクをとり、リスクが発現して危機になることをある程度覚悟する必要がある場合も多くなった」からという。

「リスクマネジメント」は、もともと経済用語で「リスクのある状況をいかに上手にマネジメントするかという点に主な狙いがある」。これに対して「危機管理(クライシスマネジメント)」は「危機が起こってからの対応に主点があった」。「リスクマネジメント」と「危機管理(クライシスマネジメント)」が、捉え方としてはいずれも「静的」であるのに対し、「リスク危機マネジメント」の捉え方は「動的」、という指摘は分かりやすい。

「動的」ということは、思わぬことが次々に起こっても果断な対応を求められるということだろう。トップの役割が当然重要となり、著者は次のように書いている。

「トップ以下の経営者が率先垂範、リードして行う必要がある」

ただし、これは全てを指示するという単なる中央集権的なトップダウンの考え方ではない。

「大きな枠組みと方針を示し、全体を俯瞰(ふかん)的に見て、必要な指示、修正を命じることがある。統率はするが、有機的につながった柔構造とし、あらゆる責任をトップとして取る…」

一方で、著者の目は、「サラリーパーソン社会」という造語を用いて日本社会の特性にも注がれている。

「日本における企業などの組織は、正規職員による共同体という一面がある。経営者も、社内における競争に勝ち抜いて昇進してきたものがほとんど。サラリーパーソン的な面が色濃く残っていると考えるべきだ」

「サラリーパーソンの生き方は、特に大企業や官庁において顕著。大きくは突出しない、横並びで物事を考えるカルチャーの下では、リスクを厳しく考える、そして厳しくリスク対策を全うすることはあまり好まれない」

結局、この本はリスク危機マネジメントの重要性と同時に、日本においてリスク危機マネジメントの実行がいかに難しいかも説き明かしている、と言えるかもしれない。

関連記事

ページトップへ