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研究者に研究助成金の取り方を教える本というのはこれまでにもある。しかし、科学記者によるこの手の本というのは珍しいのではないだろうか。
研究費を獲得するには、自分の研究の重要性をまず知ってもらうのが先決。その場合、報道されることの意味は非常に大きい。しかし、ある成果を記事にしてもらおうとすると、なかなか厄介だ。研究者、研究機関側に相応の配慮と機転が求められることを、分かりやすく示しているところが特に面白い。
「一般に、問い合わせですぐ連絡・調整に動いてくれるなど、相手の誠意が端々に感じられたら、こちらもそれに応えてあげようという気になるものです。取材してみたら、思っていたのと違う内容でも、『なんとか記事にできないか』と思案します」
こうした記述は、多くの記者あるいは記者経験者が「身に覚えのあること」と感じるのではないだろうか。大きな記事になれば、研究費の申請や予算獲得などでも有利に働くというのは、関係者によく知られた現実だ。一方、記者も人間である。同じネタを目の前にしても、取材相手の対応次第で「監督官庁にどやしつけられようと、計画が全て壊れようと知るものか」という気持ちにもなれば、逆に、大きな扱いの記事に仕立て上げようという気にも…。
うまくいった話ばかりではなく、報道する側の現実も隠さず紹介しているのに、好感を持つ読者が多いと思われる。
「憧れの人に激烈な告白をして、あっという間に失恋することが十代ではありますが、そのうちにそのようなことはなくなります」(「相手のことを思う」重要さを指摘した箇所)
「相手の様子を見ながら押し引きするー。このあたりは気になる異性とのやりとりに共通する面があるかもしれません」(「しつこさが功を奏する」ケースを紹介した箇所)
「これはパートナーとの会話でも同じ。帰宅した夫が妻と向き合うとき論理的な会話をしかけるのは厳禁。聞き役に徹して、感謝の気持ちを言葉にすることです」(「モテるのは聞き役タイプ」を強調した箇所)
研究者と記者間のコミュニケーションの機微を身近な男女関係に例える筆力も、取材経験が豊富な著者ならではのなせる業だろう。
コミュニケーションの重要さを丁寧に教えてくれるこの本は、研究者のみならず研究機関や企業の広報担当者などにも大いに役立つのではないだろうか。