レポート

科学のおすすめ本ー 日本は再生可能エネルギー大国になりうるか

2012.07.10

推薦者/サイエンスポータル編集委員

日本は再生可能エネルギー大国になりうるか
 ISBN: 978-4-7993-1169-1
 定 価: 1,200円+税
 著 者: 北澤宏一 氏
 発 行: ディスカヴァー・トゥエンティワン
 頁: 263頁
 発売日: 2012年6月28日

東北地方太平洋沖地震が発生した時、著者は独立行政法人科学技術振興機構理事長だった。日本の科学技術政策を主導し、大きな責任を持つ立場である。しかし、日本学術会議会員として、同会議東日本大震災対策委員会の下に「エネルギー政策の選択肢分科会」の立ち上げを提案、自ら分科会長を務める。福島第一原発事故が日本に与えた影響の大きさを即座に見抜き、原子力発電の功罪を根本的に見直す必要があると考えたためだ。

原子力発電を直ちにやめる、段階的にやめる、安全維持策を講じ維持する、など6つの選択肢についてコストなどを試算した報告書は、その後の政府のエネルギー計画見直し議論にも大きな影響を与えている。

さらに政府、国会から独立した「福島原発事故独立検証委員会」の委員長として、日本の原発の安全性維持の仕組みが形骸化し、事故防止どころか事故後の対応も混迷を極めた実態を詳細に明らかにする作業を主導した。

建屋の水素爆発でむき出しになった福島第一原発4号炉の使用済み燃料プールは、いったんプールの水がかなり蒸発してしまったとみられるが、隣にあった別のプール(原子炉ウェル)の隔壁がずれて漏れ出た水が流れ込んだ。この原子炉ウェルは工期が予定より遅れたため、たまたま10日間ほど水抜きが行われていなかった—。こうした記述から、より破滅的な事態が避けられたのは偶然の幸運でしかなかったことを知らされて、あらためて恐怖感を感じる読者も多いだろう。

「規制する側は、表面上では電気事業者を規制・監督しているように振る舞うけれども、実態は、電気事業者の経済的負担を軽減するように図っている」など、原子力を推進する側と規制する側が「共通の利害で結ばれた無責任集団」と化していたことも容赦なく暴いている。

この書はこうした経験に裏打ちされた厳しい指摘、豊富な事例をふんだんに提示した上で、日本が再生エネルギー大国を目指すことが、新しい時代に生きる日本の大きな目標になり得ることを明快に提言しているところが、この本の最も読み応えある箇所だ。

「再生エネルギー大国になるのに必要な資金は、『もうかる投資のメカニズム』をつくりさえすればよく、毎年、海外に投資している25兆円の一部を国内に回せば済む」
「大震災復興、再生エネルギー急速導入のため太陽光パネルなどの輸入を増やすことで、円安、輸出増が図れ、失業者が減り景気回復が起こる」
「若者たちが未来に希望を持って生きていける、そんな文化や社会を実現していかなければならない。再生可能エネルギーは、若者たちにチャレンジ目標を与える」

著者の年来の持論にも合致した数々の指摘に、目からうろこの思いを抱く読者も多いのではないだろうか。

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