レポート

エディンバラ・サイエンスフェスティバルを考えるー 第1回「英国最大! エディンバラ・サイエンスフェスティバルの訪問記」

2007.06.19

長神風二 / 科学技術振興機構

 つるつるに剃り上げた頭に火柱があがる。見守る子ども達の歓声。時に下ネタを交えながらの30分あまり。「廃棄物」をテーマに数秒ごとに満場を沸かせるDr. Burnhead(燃える頭博士)のショーは、エディンバラ・サイエンスフェスティバルの目玉の一つだ。サイエンスポータルの本欄ではいくつかの英国のサイエンスフェスティバルを紹介してきたが、毎年イースター休暇にあわせて行われるエディンバラのものは、英国でも最も古くから行われ最大のものだ、という。2007年4月、私が参加した同フェスティバルの模様を紹介した上で、日本におけるあり方を考えてみたい。

頭から火柱をあげるDr.Burnhead。メタンガスで作ったシャボン玉を頭にのせ、点火したのだ。ステージを下りた彼は博士号を持つ生真面目な人だった。
頭から火柱をあげるDr.Burnhead。メタンガスで作ったシャボン玉を頭にのせ、点火したのだ。ステージを下りた彼は博士号を持つ生真面目な人だった。  (写真提供:国立科学博物館 亀井修 氏)

 エディンバラのフェスティバルは、子どもたち向けのWonderama(造語:「ふしぎドラマ」とでも翻訳か)、セミナーシリーズのBig Ideas、植物園などその他の場所で行われるイベント群に大きく分けられる。

 中核をなすのがWonderamaで、Dr.Burnheadのショーもここに含まれる。ショー会場の横では、小型のロボットを用いたワークショップが行われ、人が入れる大きさの細胞模型も置かれている。更に、外科・歯科などの医療現場や、恐竜の化石の発掘現場を再現したワークショップなども人気を集めていた。Wonderamaの部分だけで、期間中11,000人が訪れている。

恐竜発掘ワークショップの風景。緑色のTシャツを着た大学生(アルバイト)の指示に従い、子どもたちが化石を「発掘」している。
恐竜発掘ワークショップの風景。緑色のTシャツを着た大学生(アルバイト)の指示に従い、子どもたちが化石を「発掘」している。

 フェスティバルが対象としているのは子どもたちだけではない。研究者によるレクチャーシリーズBig Ideasは、コンピューターサイエンスから宇宙論に至るまで幅広いテーマを扱い、主に夕方に、150人程度が収容できる博物館の講堂で各1時間半弱、計35回開かれている。私が参加した5つ程度の中でも、講演に巧拙があるのは洋の東西を問わないことはわかったが、どんな話題に対しても少なくとも70人程度の聴衆は集まり、20分程度の質疑応答も活発になされていたことは特筆すべきだろう。

エディンバラのサイエンスフェスティバルの主会場の前景。築200年は超えているであろう、市の公会堂だ。
エディンバラのサイエンスフェスティバルの主会場の前景。築200年は超えているであろう、市の公会堂だ。

 中でもユニークなものは、“Stem cell dream”と題した、幹細胞研究に関するセッション。聴衆には一人一人テレビのリモコン様の発信器が配られ、壇上の受信機に向けてボタンを押すと、赤外線で電子投票を行うことができる。EU制作の研究紹介ビデオの視聴や、研究者らによる壇上のディスカッションによって、聴衆の幹細胞の臨床応用に対する態度がどう変化するか、をリアルタイムで表示する実験的な試みだった。

 他に「夜の植物園ツアー」に参加し、懐中電灯片手の学芸員に連れられて、夜に花開き、匂いを頼りに昆虫を集める植物たちの戦略の話を実物を前に楽しんだ。15名程度の参加定員は、応募開始からすぐに予約で満員になったと言う。

 この文章と、4〜5月に本欄に掲載されたインタープリターの方々のレポートなどを読まれた方の多くは、すばらしいフェスティバルが英国では運営されていて、と思い、それにひきかえ日本は、と思われることだろう。しかし、筆者が知る日本の状況もそうそう捨てたものではない。

 まず参加者数だが、エディンバラのように1万人を超える科学のイベントは日本にも複数ある。代表的なものは「科学の祭典 全国大会」で、例年4日間の開催に各日1万人以上の来場がある。ほかに、大阪自然史科学館で不定期に開催されている「大阪自然史フェスティバル」や、必ずしも科学だけのイベントではないが「富山大学 親子フェスティバル」も、2〜3日間で1万を超す来場者を得ることで知られている。エディンバラの開催期間が2週間であることを考えると、むしろ驚異的とも言えるだろう。

 また、イベント内容だが、エディンバラの開催は非常に多彩であるが、日本においても、フェスティバルに限らずに行われているもの一つ一つを見てみれば、必ずしも劣ったものではない。多少玉石混淆の感はあるものの、ここ数年のサイエンスカフェの全国的な広がりは目を見張るものであるし、自然観察タイプのイベントも非常に多く、料理などをテーマにした企画も多くなってきている。当然、大人を主対象とした催しも、特に首都圏では数多い。ただし、それぞれの試みは単発であることが多く、参加する側にとっては、目的のものが見つけにくくなっている。

 では、英国と日本のどこが違うのだろう。ブライトンやニューキャッスルのフェスティバルに参加したインタープリター達とも話したが、個別のイベント一つ一つを比べても大きな違いはないが、全体的な、町とサイエンスの関係のようなものに、漠然とした違いを感じている。その違いが何なのか、次回、自分なりに分析してみよう。

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