ハイライト

「排出されるプラスチックごみを減らすことが基本」「各国政府が集まって新しい対策の国際枠組みが必要」

2019.07.04

ロドルフォ・レーシー 氏 / 経済協力開発機構(OECD)環境局長

6月17日の日本財団、環境省共催「海ごみゼロ国際シンポジウム」から

ロドルフォ・レーシー 氏
ロドルフォ・レーシー 氏

 20カ国・地域(G20)エネルギー・環境大臣会合(注:6月15、16日長野県軽井沢町で開催)で初めて議題として海洋プラスチックの問題が取り上げられたことは大きなことだった。私も(会合に)呼んでもらったことに対し日本政府、環境省の皆さんに感謝したい。海洋プラスチックごみの問題に対しては各国政府が集まって新しい対策の国際枠組みが必要だ。

 世界のプラスチックの生産量は過去60年間でものすごく伸びている。1950年にはほとんどゼロだったのに現在は4億トン以上にまで拡大している。現在海に流出する海洋プラスチックごみ(海のプラごみ)の問題は緊急課題で、抜本的に解決しなければならない。2050年にはプラスチックの生産量は今の約5倍に増えると予測されている。こうした生産量は受け入れがたい事態で、今から対策を進めなければならない。G20エネルギー・環境大臣会合でも議論された。手段はある。早くそれを実行しなければならない。

 海洋プラごみは(海洋)生物だけでなく人間にも(食物連鎖を通じて)影響を与える。海洋に関する経済活動にも影響する。漁業や観光に及ぼす(被害の)影響は130億ドル相当に及ぶと推計されている。こうした問題に対処するためには何と言っても政策が重要だ。だからこそOECDもこの問題に積極的にコミットしている。

 まず基本は排出されるプラごみを減らすことで、それをまずやらなくてはならない。これは言うは易しだが実行するのは容易ではない。これまでは使い捨てプラスチックの使用が多かったが、多くの国で禁止されるようになった。国レベルだけでなく都市や地域で禁止されている例もある。禁止に伴う代替措置も必要だ。プラスチックに代わる紙や竹、木材といった素材でもいい。(OECD)は代替物の開発(支援)を推進している。

現在世界のプラスチックのリサイクル率はわずか6%

 プラごみの回収と処理も重要だ。基本的には(既に回収と処理の仕組みができている)ほかの廃棄物と同様の扱いが必要だ。現在世界で使われているプラスチックのうちリサイクルされているのはわずか6%にすぎない。アルミはリサイクル率が高いがそれでも40%だ。プラスチックのリサイクル率は極めて低い。アルミ同様にリサイクルの仕組みをプラスチックでもつくらなければならない。

 プラスチックに関するマインドセット、つまり考え方を根本的に変えていかなければならない。現在プラスチックの需要(消費)サイドと供給(製造・販売)サイドの両方に課題がある。現在、新品のプラスチックと再利用プラスチックは(使用・消費時には)区別が付かない。再利用プラスチックは新しいものと(値段などで)同一条件で競争しなければならない。これをまず変える必要がある。そのための効果的な政策も議論していきたい。

 OECDに参加する多くの国々は現在プラごみを輸出しているが、最近輸出規制が厳しくなった。特にアジアでその傾向が顕著だ。(有害廃棄物の国境を超えた移動や処分を規制する)バーゼル条約の改正が5月に決まった。輸出規制は今後さらに厳しくなるだろう。この動きは(再利用のための)回収プラスチックの価格にも影響し、国を超えたプラスチックの回収から再利用に至る循環がうまく回っていない。このため国際間で回収プラスチックに関わる諸課題をなくす検討が求められている。

OECD報告書「Improving Markets for Recycled Plastics」の表紙(提供・OECD)
OECD報告書「Improving Markets for Recycled Plastics」の表紙(提供・OECD)

 再利用プラスチック製品は(その全てが再利用された素材とは限らないので)再利用素材の含有率を表示するという方策がある。(表示することで再利用率が高まる可能性があるので)この表示対策はG20エネルギー・環境大臣会合でも議論された。循環型経済ではリサイクルのための(具体的な)アプローチが必要だ。どの国の使用済みプラスチックが再利用されたかという表示も大事だ。このような方策をして各国でリサイクルを推進していくことが求められている。

 リサイクルを推進するためには各国の政府や自治体などが再利用プラスチックを購入する公的調達(を促進するための)ルールも必要だろう。リサイクルに関する税制もポイントで、新品のプラスチックに関しては環境コストを反映した課税も必要だと思う。また回収プラスチックを取引、管理する方法の見直しも検討すべきだ。例えば、環境影響を考慮した管理をきちんとできる国にしか回収プラスチックを輸出できないといった取引ルールだ。バーゼル条約の改正はこうした方向を目指した正しい取り組みだった。

特にアジアでリサイクル率を高めてプラごみの海への流出を減らす必要

 供給サイドについては質と量の問題がある。プラスチックを回収、分別、処理するコストは上がっている。回収については回収場所が分散している(運搬コストがかかる)。またそれぞれのプラスチック製品の質は異なるため、汚染がひどくリサイクルできないものもある。プラスチックの質によってはリサイクルが難しいものもある。有害な添加剤が入っているものもある。生物に有害なものを含有するプラごみが海に流れている。こうした問題を解決してリサイクルするためには技術も重要だ。

 特にアジア諸国でプラごみの海への流出を減らし、リサイクル率を高める必要がある。こうした国では施設・設備の改善が求められる。現在、政府開発援助(ODA)の総額のわずか0.3%しか発展途上国の廃棄物管理分野に振り向けられていない。これを拡大すべきだ。

 回収されるプラスチックの質を高めなければならない。そのためには「2重ストリーム」「多重ストリーム」といった新しい回収の仕組みや、製品に対する生産者の責任がリサイクル後にも適応されるという「拡大生産者責任制度」や「デポジット・リファンド制度」(注)も必要だろう。また、発展途上国の行政の指導下にない「インフォーマルセクター」との協力も大切だ。途上国では多くの場合、インフォーマルセクターが廃棄物処理を担っているからだ。

(注:製品購入時に製品価格に一定額を預かり金として上乗せして販売し、使用後に使用済み製品を所定の場所に返却すれば預かり金の一部や全額を返却する制度)

 OECDはプラスチックに関する取り組みを積極的に行ってきたが、これからも一層注力していきたい。昨年OECDは回収プラスチック市場の改善に関する報告書などを出し、持続可能なプラスチックに関する国際フォーラムも開催した。今年はG20エネルギー・環境大臣会合で議論された課題や海洋プラごみが砕けて微細な粒子になったマイクロプラスチックの問題にも取り組んで行きたい。

(サイエンスポータル編集長 内城喜貴)

「海ごみゼロ国際シンポジウム」(日本財団、環境省共催)で表彰された「海ごみゼロアワード」の受賞者たち(東京都港区虎ノ門の笹川平和財団国際会議場)
「海ごみゼロ国際シンポジウム」(日本財団、環境省共催)で表彰された「海ごみゼロアワード」の受賞者たち(東京都港区虎ノ門の笹川平和財団国際会議場)
ロドルフォ・レーシー 氏

ロドルフォ・レーシー 氏プロフィール
メキシコ・メトロポリタン自治大学で環境工学を学び、米マサチューセッツ工科大学で都市研究・計画の修士号、メトロポリタン自治大学で環境科学工学の博士号を取得。1982年メキシコ政府の都市開発生態省・環境計画ディレクター、2000年環境天然資源大臣首席補佐官、2012年環境天然資源省環境政策立案担当副大臣。2018年8月から経済協力開発機構(OECD)環境局長。

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