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プラごみによる環境汚染、世界で深刻 国際的危機感広がり、G20前に政府が行動計画

2019.06.07

内城喜貴 / サイエンスポータル編集長、共同通信社客員論説委員

 日々生産され、使われる便利なプラスチック。そして毎日大量に発生するプラスチックごみ(プラごみ)。こうしたプラごみによる環境汚染が国際的な問題になっている。特に海洋汚染は世界の海で深刻だ。今月28、29日に大阪市で開かれる20カ国・地域(G20)首脳会合では、各国がどのような対策を進めるか、が重要議題の1つになる予定だ。 議長国日本の政府はこのほど、海洋に流出するプラごみの削減に向けた行動計画(海洋プラスチックごみ対策アクションプラン)と、「プラスチック資源循環戦略」を決めた。

 プラごみは世界的に増加している。経済協力開発機構(OECD)の報告書によると、発生量は2015年に年間3億200万トン。海への流出量は10年段階の推定で年間400万〜1200万トンに上った。環境省によると、流出量の上位は中国、インドネシア、フィリピンの順。日本からも最大推定量で年間6万トンが流出し、30位だ。

 ごみが観光や漁業などに与える損害は年間130億ドルに及ぶと指摘されている。50年には海のプラごみ量が魚の総量を超えるとの予測もある。海洋汚染だけでなく、魚介類の食物連鎖を通じて人体に悪影響を与えるとも指摘されている。海に流されたプラごみは紫外線や波の力によって5ミリ以下に砕けてマイクロプラスチック(MP)になる。これが魚介類に取り込まれ、食物連鎖によって人間を含む多くの動物の体内に入る恐れがあるという。魚類のほか、海鳥、アザラシなどの海洋ほ乳動物を含む600種以上の生物が傷つけられたり死んだりしているという指摘もある。

日本国内の海岸へのごみ漂着例。プラごみが多い(環境省資料「海洋プラスチック問題について・平成30年7月環境省」から/提供・環境省)
日本国内の海岸へのごみ漂着例。プラごみが多い(環境省資料「海洋プラスチック問題について・平成30年7月環境省」から/提供・環境省)

 先進国、新興国を問わず世界のプラスチック生産量は増えていながら、リサイクル率は生産量の10%台と推定されている。生産量を抑えないと、2050年までに世界中で生産されるプラスチック量は200億トンとも300億トンとも言われる。生産量の増加に伴ってプラごみの発生量も増え、15年段階ではあらゆるごみの3〜4%に当たるという。このままでは取り返しがつかない環境悪化が予想される—。こうした危機感が世界の多くの国で共有され、各国とも真剣にプラごみ対策を進めざるを得ない事態になっている。

 日本は1人当たりのプラスチック製の容器や包装の廃棄量が米国に次いで世界で2番目に多い。日本を含め、プラごみに対する国内対策が喫緊の重要課題になった大きな要因として、プラごみの輸出が事実上難しくなったことがある。大量のプラごみを受け入れてきた中国は2017年末に輸入禁止の措置をとった。日本国内で発生したプラごみの最大の輸出先だった中国が環境汚染の懸念から海外からの流入を厳しく制限したのだ。

プラごみの輸出は事実上困難に

 日本の環境シンクタンク「地球環境戦略研究機関(IGES)」の分析では、中国が日本など海外からの流入を厳しく制限した分が東南アジア諸国に流入し始めた。しかしこれらの国にも輸入を規制する動きが出て、ごみは処理に向けた行き場を失って国内在庫が増える恐れがあるという。

 IGESがまとめた報告書によると、2016年に日本国内で発生したプラスチックごみの総量は約899万トン。そのうち約68万トンは国内でリサイクル材用に使用され、約138万トンは中国や香港へ輸出された後、中国国内でリサイクル製品用材として使われていた。しかし、中国政府は17年7月に世界貿易機関(WTO)にプラスチックごみなどの固形廃棄物の輸入禁止を通告、日本を含む多くの国から中国へは事実上輸出できなくなった。そして同年12月末付で輸入禁止措置を施行している。

地球環境戦略研究機関(IGES)がまとめた報告書「プラスチックごみ問題の行方:中国輸入規制の影響と今後の見通し」の表紙に使用されたプラスチックごみのカット写真(IGES提供)
地球環境戦略研究機関(IGES)がまとめた報告書「プラスチックごみ問題の行方:中国輸入規制の影響と今後の見通し」の表紙に使用されたプラスチックごみのカット写真(IGES提供)
日本からアジア各国へのプラスチックごみの輸出量の推移(IGES提供)
日本からアジア各国へのプラスチックごみの輸出量の推移(IGES提供)

 こうした動きは国際的な規制へとつながった。有害廃棄物の国際的移動を規制するバーゼル条約の締約国会議が5月にスイス・ジュネーブで開かれ、汚れたプラごみを輸出入の規制対象に加える条約改正が決まった。2021年に発効する。輸出そのものを禁止するものではないが、相手国の同意が義務付けられた。輸出は事実上困難になった。条約改正案は日本とノルウェーが共同提案したが、条約改正が実現した背景には、中国によるプラごみ輸入禁止措置が大きい。行き場を失ったプラごみが世界各地にあふれ、海に流出する量が急増すると予想されたからだ。

 IGESが指摘した通り、中国の措置は東南アジア諸国にも影響を与えている。マレーシア政府は5月下旬に、日本や米国、カナダ、オーストラリアなど少なくとも7カ国からプラごみが不法に輸入された、と主張して、計3千トンを送り返すと発表した。フィリピン政府も同じような決定をしている。

海洋汚染防止はSDGsの1つ

 先進国の危機感は大きい。このため今年のG20の議長国・日本としては、プラごみ問題、プラごみによる海洋汚染問題をG20の重要議題にする必要があった。政府がG20を前に決めた海洋プラごみの行動計画は、5月31日に安倍晋三首相も出席した「海洋プラスチックごみ対策の推進に関する関係閣僚会議」で決まった。安倍首相は席上「問題の解決には世界全体での取り組みが不可欠だ。我が国もあらゆる手段を尽くす必要がある」などと述べている。

 行動計画はまず、国連持続可能な目標(SDGs)の1つ(目標14)に「あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削減する」があることに触れて「G20議長国の日本は新興国も含めてG20として海洋プラスチックごみ問題への対策が効果的に促進されるよう取り組む」と明言した。

 その上で「重要なことは、プラスチックごみの海への流出をいかに抑えるかだ。廃棄物処理制度による回収、ポイ捨て・流出防止、散乱・漂着ごみの回収、イノベーションによる代替素材への転換、途上国支援など、『新たな汚染を生み出さない』ことに焦点を当て、率先して取り組む」と“宣言”している。

5月31日に開かれた政府の「海洋プラスチックごみ対策の推進に関する関係閣僚会議」(提供・首相官邸)
5月31日に開かれた政府の「海洋プラスチックごみ対策の推進に関する関係閣僚会議」(提供・首相官邸)

日本は使い捨てプラを2030年までに25%削減

 行動計画は8つの重点対策分野を挙げた。このうち「代替素材の開発・転換等のイノベーション」分野では、漁具などを海洋生分解性プラスチックやセルロース素材といった素材に転換する必要があるとし、官民連携による技術開発を促進させるとしている。また「廃棄物処理制度等による回収・適正処理の徹底」分野では、国民の日々のゴミ出し・分別回収への協力を前提に、廃棄物処理制度・リサイクル制度による回収の徹底や、最新技術を活用した国内回収処理体制の増強などの推進を列挙している。

 昨年6月の先進7カ国(G7)首脳会議では海のプラスチックごみ削減の数値目標を盛り込んだ憲章が採択されたが、今回決まった行動計画はプラスチックの生産抑制には直接触れていない。

 政府は行動計画と合わせて関係9省庁が進める「プラスチック資源循環戦略」も決めている。この中で使い捨て(ワンウエイ)プラスチック排出量を2030年までに25%削減する目標を掲げた。このほか、30年までにプラスチックの再生利用を現在量の倍増にし、35年までに使用済みプラスチックを100%有効利用することも目標にしている。

 気候変動対策と同様に、プラごみの問題でも積極派は欧州だ。欧州連合(EU)の閣僚理事会は最近、使い捨てプラスチック容器や発泡スチロール容器を禁止する新しい規制案を承認し、法制化も視野に入れた動きを見せている。規制の動きは欧州だけでない。80カ国以上でレジ袋の無料配布が禁じられ、フランスなど、分解しないプラスチック製レジ袋の製造・提供自体を禁じている国も増えている。また30カ国近くの国でストローなどの使い捨てプラスチック製品の使用が禁止されているという。世界のすう勢は「規制」だ。

使い方の見直しが基本

 日本のペットボトルの年間出荷本数は2016年度で227億本で、世界の国平均量を大きく上回る。プラスチック製品は便利さゆえに私たちの日々の生活に深く入り込んでいる。政府の行動計画が定めたようにリサイクルの徹底やプラごみ処理能力の向上、代替品開発など国、地方行政、企業など各レベルでできること、やるべきことは多い。プラスチックストローを廃止したチェーン店も増えている。環境省はレジ袋有料化に向けた法制化の検討を始めた。

 私たち消費者もプラスチックの使用量を減らす努力、少なくとも国内リサイクルが難しい汚れが取れないプラごみを極力減らす努力が求められる。気候変動をもたらす温室効果ガスは、一人一人がどのくらい排出しているかは見えない。しかし、プラごみをどれだけ捨てているかは、はっきりと分かる。国内各レベルでの対策強化は極めて重要だが、私たちもプラスチックの使い方を見直すことが求められている。

(サイエンスポータル編集長、共同通信社客員論説委員 内城喜貴)

インド・ムンバイの海岸のプラスチックごみ(2015年)(UNEP「Single-use Plastics:A roadmap for Sustainability」から/UNEP提供)
インド・ムンバイの海岸のプラスチックごみ(2015年)(UNEP「Single-use Plastics:A roadmap for Sustainability」から/UNEP提供)

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