経済協力開発機構(OECD)東京センター主催「OECD科学技術・産業スコアボード2015 リリースセミナー:成長と社会のためのイノベーション」(2015年10月26日)発表から
経済協力開発機構(OECD)の報告書「科学技術・産業スコアボード」の発表は、今年が30年目となる。スコアボードには200以上の指標が含まれている。今年のスコアボードに盛り込まれているOECD加盟国とBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)諸国の資料を見てみると、(多くの国々が)危機をやっと乗り越え、将来に向けての投資も増えていることが分かる。
科学技術・イノベーションにとって何が重要か。私はやはり生産性だと思う。生産性の低下、労働人口の減少という共通の問題を抱える中で、生産性をいかに上げるか、が各国共通の課題になっている。生産性の問題は、来年6月にチリで開かれるOECD閣僚会議でも取り上げられる予定だ。
投資に対する見返り少ない日本
労働生産性の低下は、日本だけでなく多くの加盟国が経済危機の前から始まり、危機後も続いている。懸念されることは、高齢化と労働人口の低下とともに、この問題が起きていることだ。日本はこの20年、国民1人当たりの所得が減っており、OECD加盟上位20カ国に匹敵していた数値が14%も下がってしまっている。生産性を上げることができる国は限られているが、労働投入量が減っている日本は難しい状況にある。
労働力の投入ができないとなると、できることの一つは資本・資材の投入だ。日本は既にGDP(国内総生産)の15%というかなり高い設備投資をしている。投資に対するリターン(見返り)が小さいのが問題だ。
もう一つの見方である全要素生産性は、労働力と資本の他に、イノベーション(という技術上の進歩)が加わる。R&D(研究開発)投資だけでなく、補完的な投資が必要になる。ソフトウェア、データ、組織の持つノウハウ、特許、デザイン、著作権、意匠といった知的財産権、さらに企業固有の労働者の訓練といったものが含まれる。組織的ノウハウや訓練といったものは測定が難しい。要は機器や機材だけでなく、無形のものにも目を向ける必要があるということだ。
各国政府のR&D支出を見ると、非常によいことだったと思うが、経済危機に直面したときにR&D予算を増やしている。景気刺激策としてだったが、予算の制約で長期間続けることができず減ってきているのが現状だ。2008年を基準にすると先進7カ国でR&D支出は下がっており、日本は比較的よい。しかし、ドイツと韓国はもっとよい。
最先端の研究はたくさんのリソース(資源・要素)が必要。中でもR&Dは主要な指標であることが分かる。米国が最大のR&D支出国で、2位は中国。両国に続く韓国、ドイツ、日本の上位5カ国でEU(欧州連合)28カ国に BRICS諸国を加えた国々の総R&D支出額の7割を占める。
論文被引用率も伸び悩み
日本の問題の一つは、各分野で最も引用率が高い上位10%に入る研究論文の比率がほとんどのOECD加盟国より低いこと。2003年から2012年の間にOECD加盟国とBRICS諸国の論文数は平均年8%増え続けている。しかし、日本の論文数はほとんど変わらない。さらに論文の質の面でも2003年から10年間で被引用率上位10%に入る論文の比率も約9%とほとんど変わらないということだ。
さらに、少し国際協力で遅れをとっているということが明らかになっている。共著論文、共同発明、イノベーティブな企業との協力という指標からみた研究開発面での国際協力が弱い。国際協力は企業にとって安いコストと小さなリスクで大きな知的資源のプールへのアクセスを可能にさせるという重要な役割を持つ。
日本はもっとグローバルな協力が必要だ。
(小岩井忠道)
アンドリュー・ワイコフ(Andrew Wyckoff)氏プロフィール
米バーモント大学で経済学(学士)、ハーバード大学大学院で公共政策を学ぶ(修士)。米科学財団(NSF)、米議会技術評価局(OTA)のプログラムマネージャーなどを経て、OECD科学技術イノベーション局経済分析統計部門やOECD情報・コンピューター・コミュニケーション部門の長を務めた後、現職。米科学アカデミーやマレーシア首相の科学技術イノベーションに関する諮問委員会の委員なども務める。
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