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がれき処理から環境産業創生を(教授 吉岡敏明 氏 / 東北大学大学院 環境科学研究科)

2012.06.29

教授 吉岡敏明 氏 / 東北大学大学院 環境科学研究科

シンポジウム「大震災を契機に地域・まちづくりを考える」(2012年6月21日、日本学術会議主催)基調講演・パネルディスカッションから

東北大学大学院 環境科学研究科 教授 吉岡敏明 氏
吉岡敏明 氏

 東日本大震災で発生したがれきの量は、青森から千葉に至る太平洋沿岸の市町村を合わせると2,400万トンに上ると推定されている。このほか津波堆積物も1,100-1,800万トンに上るといわれる。ほとんどの地域のがれきは、さまざまなものが混じり合いぐちゃぐちゃの状態で集められた状態にある。これでは、なかなか次の状態に進めない。

 仙台市では、大震災で135万トンのがれきと、130万トンの津波堆積物が発生した。このうち最低でも半分、できれば6割をリサイクルする目標で処理を進めた結果、最終的には7割までリサイクル可能ではないかという見通しが得られている。

 仙台が成功しているのは、市内に8カ所設けた集積場(仮置き場)に市民が持ち込む際に分別集積を徹底し、海岸部に設けた3カ所の委託集積場も同様にしたことだ。地震動被害に比べ、津波被害の方が最優先される救助活動に続く不明者・遺体捜索、家財探しがより多くの時間を要する。がれき撤去にとりかかるのもその分、遅れざるをえない。逆にこうした状況であるからこそ、分別して集積所に運び込むことがやりやすくなる面がある。今年4月までに100%近くが撤去済みで、このうちのほぼ20%がリサイクル処理された。

 ごちゃごちゃの状態でがれきの処理が進まない他の地域との違いは、仙台市が平常時から廃棄物をゴミではなく資源として捉え、リサイクルを中心とする行政を行っていたからだ。がれき処理も平常時同様、リサイクル推進課が担当した。来年5月にはがれき処理は完了の見通しで、今夏からは石巻市のがれきを受け入れて、リサイクル処理することも決まっている。

 東北地方はもともと森が豊かな地域だ。森をきれいにすることで、森から生まれる豊富な養分が川の水によって気仙沼湾に運ばれ、養殖カキの餌になるというNPO活動「森は海の恋人」でも有名な地域でもある。森をどのようにして生かすか、環境、エネルギー問題と絡めて考えていくことで、地域全体の人々が幸せに暮らせる街づくりが可能になるのではないだろうか。

 仙台市のようながれき処理が可能になったのは、1995年の阪神・淡路大震災当時にはなかった各種のリサイクル法ができたことによっている。津波堆積物を汚泥として処理すると環境省、土砂として処理すると国交省、農地内のがれきは農水省と担当官庁が異なるために、地方自治体にとって予算を組むのが複雑という問題がある。一般廃棄物扱いということで環境省に窓口が一本化されたが、このほかにも、リサイクル事業者という制度上の業種はなく、産業廃棄物業者に入れられてしまうといった制度的な問題もある。

 今回の大震災を機に、廃棄物処理をごみ処理事業ではなく、リサイクル事業と捉える制度を再構築し、新たな環境産業の創生を目指すべきではないだろうか。

東北大学大学院 環境科学研究科 教授 吉岡敏明 氏
吉岡敏明 氏
(よりおか としあき)

吉岡敏明(よしおか としあき)氏のプロフィール
宮城県仙台第一高校卒。1988年東北大学工学部応用化学科卒。90年東北大学大学院工学研究科修士課程修了、92年同博士過程中退後、東北大学工学部分子化学工学科助手。2000年東北大学大学院工学研究科助教授、東北大学超臨界溶媒工学研究センター助教授、同環境保全センター助教授を経て05年から現職。専門はリサイクル工学、環境関連化学、無機化学。廃棄物資源循環学会理事・「災害廃棄物対策・復興タスクチーム」幹事も。

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