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農地集約化でコメの輸出も(本間正義 氏 / 東京大学大学院 農学生命科学研究科 教授)

2009.07.03

本間正義 氏 / 東京大学大学院 農学生命科学研究科 教授

フォーラム「日本の農業改革の突破口」(2009年6月8日、政策研究大学院大学主催)講演、パネルディスカッションから

東京大学大学院 農学生命科学研究科 教授 本間正義 氏
本間正義 氏

 日本の農業は元気がない。将来に期待できないので増産意欲がわかない。なぜか。自分の能力を発揮できる機会がきちんと与えられていないからだ。大きな問題が減反政策である。コメの生産調整によりつくりたいだけ作れないため、経営能力に合わせて規模の拡大ができない。規模を拡大したとしても一定量は生産調整させられ、別の作物を作らざるを得ない。これでは意欲がわかないのは当然だ。

 一方で、コメづくりの技術は大変、簡単になっている。小規模農家でも週末だけ作業すればコメが作れる。主な所得は農業以外のところに求めて、コメを細々と作る非常にリッチな小規模農家が多い。しかし、農業だけでは1ヘクタールの水田があれば少しは黒字のところもあるが、0.5ヘクタール未満はほとんど赤字だ。では、1ヘクタール未満の農家が全体の7割、0.5ヘクタール未満が4割もあるのに、農業を続けているのはなぜか。日本の場合、農地が工場や商業あるいは住宅用地にも適しているからだ。農地整備によって平らで水はけがよい土地で、なおかつ道路もできている。将来、非農用地として売れたら30-50倍で売れて非常に大きな利益を得ることが可能だから、狭くても所有している方が得、となっている。

 農協が兼業農家を温存している実態もある。日本の農家は285万戸しかない。農協の正組合員は500万人もいる。さらに400万人の准組合員を加え900万人もの人が農協に属している。集票マシーンとなっているので自民党からだけでなく民主党からも弱小農家を支援する政策が出てきてしまう。

 減反政策に加え、小さな農地でも手放さず貸すこともしない方が得、という2つの理由で農業の規模拡大は進まない。

 日本の農地は一種の参入規制が行われている。誰でも買ったり売ったり、利用できる制度になっていない。これを解除するための突破口として何をしたらよいか。一つは減反政策をやめることだ。補助金は出すが、減反のやり方は農民に任せたはずなのに、政治的理由から政府に戻ってしまった。これを元の軌道に乗せることが大事。そうすれば減反に参加しないという農家が出てくる。そこから解除が進むのではないか。農地制度は根本的な見直しが必要で、農地は誰でも使えるようにすべきだ。

 日本国際フォーラムは1月に日本の農業政策の転換を呼びかける政策提言「グローバル化の中での日本農業の総合戦略」を公表した。日本の農地問題は非常に複雑で、農水省の担当者でもよく分からんというめんような法体系になっている。全国レベルで法改正をやろうとしても相当な時間と労力がかかる。法律を変えるのではなく経済特区として、自由にやらせてくれ。農地法の適用をすべて外し、売買も賃貸も自由。その代わり農地としてきちんと使う。そういうボトムアップの動きを支援しようではないか、成長産業としてとらえようではないか、というのがこの提言のスローガンだ。

 まずはコメの減反政策を抜本的に見直し、100ヘクタール規模の農業経営体を1万程度育てる。それを核として5年とかの期限を切って大規模な食料基地をつくる。食料基地は「経済特区」とし現在の農地規制は一切設けない。ただし、農業生産をしない農家には、農地以外の転用も30年間は認めない、というような相当なペナルティをかける。こうした100ヘクタール規模の農業経営体が増えてきて1万くらいになれば、コメを輸出産業にすることも可能と思う。

 企業の参入を自由にすることで、企業の信用力と金融力を利用できる。農家だけでやると大きなリスクを抱えることになる。これまで企業が参入して失敗した例はたくさんある。それは農業とのコラボレーションがなかったためだ。優秀な農家が農場長として現場を仕切り、経営、マーケティング、加工、販売は企業が担う。こうしたコラボレーションで大規模化を目指すわけだ。100ヘクタール規模の農業経営体1万程度にはいろいろな経営形態があってよく、農家だけでやれるというところはやればよい。とにかく農業に企業が入ってくることでリスクを分担しながら新しいビジネスモデルをつくることにつながる。

 小規模農地保有者に高い保有コストをかけて土地をはき出させるという議論もあるが、やはり農業への投資を進める、農業者のモチベーションを高めることが重要。農地の集約化によって初めてコメの輸出も可能になる。

東京大学大学院 農学生命科学研究科 教授 本間正義 氏
本間正義 氏
(ほんま まさよし)

本間正義(ほんま まさよし)氏のプロフィール
1951年山形県生まれ。74年帯広畜産大学畜産学部卒、82年アイオワ州立大学博士課程修了。東京都立大学経済学部助手、小樽商科大学商学部教授、成蹊大学経済学部教授などを経て2003年現職。専門は農業経済学、開発経済学、農業政策の政治経済分析。著書に「農業問題の政治経済学」(日本経済新聞社)、「農業問題の経済分析」(共編著)など。日本国際フォーラム政策委員会の主査として「グローバル化の中での日本農業の総合戦略」をまとめる中心的役割を果たした。

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