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数学者が産業界で活躍するルート開拓(中尾充宏 氏 / 九州大学 産業技術数理研究センター長)

2008.05.16

中尾充宏 氏 / 九州大学 産業技術数理研究センター長

シンポジウム「未来社会への挑戦~ナイス ステップな研究者2007からのメッセージ~」(2008年4月11日、科学技術政策研究所 主催)パネル討論から

九州大学 産業技術数理研究センター長 中尾充宏 氏
中尾充宏 氏

 数学の博士課程修了者が将来産業界でも活躍するルート開拓を狙った試みを、2006年度から始めている。博士課程の1、2年生に企業で3カ月から半年という長期インターンシップを義務づける制度だ。それが非常によい結果をもたらしている。それまで全く知らなかった企業での経験を基に企業の人と共著論文を書いたり、特許を取ったりした院生が出ている。何よりも生き生きとして戻って来る院生が多く、中には企業との共同研究に発展した例もある。

 なぜこのような制度を考えたかだが、きっかけは九州大学数理学研究院で推進してきた21世紀COEプログラム「機能数理学の構築と展開」にもとづく教育研究拠点形成事業にある。このプログラムに応募する時点で、何をすべきか考えた。やはり純粋数学と応用数学が非常にバランスよく展開されてきた九州大学の伝統を活かすのがよい、となった。数学の博士課程はアカデミックな世界で生きていく、大学の先生になるということを前提にしている人が多い。一方、緊縮財政、少子化などで高度経済成長時のように大学の先生も増えない、むしろ減少するという時代である。大学院博士課程の充実というのは極めて矛盾したことを求めることにもなりかねない。

 結局、数学の博士課程修了者に産業界で活躍してもらう以外にない。産業界に役立つ博士を作る。それができなければ博士課程を縮小せざるをえない、という結論になった。所属する研究員のほとんどと直談判し、3カ月以上の長期インターンシップを義務づける新しい博士の養成を目的とする「機能数理学コース」の構想ができあがった。数学が企業とどうかかわっているか、数学の活かし方を実務体験してほしいという狙いからだ。

 数学は、もともとどこにでも対応できる汎用性を持っている。実際に具体的な現象に出くわしたら、それを数学的手法でもって解決していくという能力を持っている。それは分かっていたことだ。しかし、では数学者が産業界にどんどん進出して能力を発揮し、社会的な貢献をしているかと言えば、残念ながら実際には不十分と言わざるを得ない。理由は場が与えられていないからだ。そのような場を構築する、数学者が社会進出するルートを開拓するという目的で作ったのが博士課程の長期インターンシップである。この制度の充実のために2007年4月には九州大学の共同教育研究施設として産業技術数理研究センターというものをつくり、私がセンター長になった。

 長期インターンシップによってよいセンスを学んできた院生がいい形で産業界に進出し、社会的な貢献を果たしてくれることを期待している。

九州大学 産業技術数理研究センター長 中尾充宏 氏
中尾充宏 氏

中尾充宏 氏のプロフィール
九州大学数理学研究院教授。2007年4月から同大学産業技術数理研究センターの初代センター長も兼務。専門分野は計算科学。理学博士。2006年度に九州大学数理学研究院博士後期課程に機能数理学コースを新設し、必修科目として企業への長期インターンシップを盛り込んだカリキュラムを導入。この「産業界との連携による若手数学研究者の育成」業績により、若山正人・九州大学数理学研究院長とともに科学技術政策研究所の「ナイス ステップな研究者2007」に選ばれた。

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