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効率的な有機農業の確立目指し(二瓶直登 氏 / 福島県農業総合センター 作物園芸部畑作科 主任研究員)

2008.04.25

二瓶直登 氏 / 福島県農業総合センター 作物園芸部畑作科 主任研究員

シンポジウム「未来社会への挑戦~ナイスステップな研究者2007からのメッセージ~」(2008年4月11日、科学技術政策研究所 主催)パネル討論から

福島県農業総合センター 作物園芸部畑作科 主任研究員 二瓶直登 氏
二瓶直登 氏

 福島県は知事の肝いりで、環境保全と消費者の食に対する安全志向に配慮した農業生産の取り組みとして有機農業を推進しており、県農業総合センターでも、研究を進めている。しかし、有機農法というのは実際には、作物や地域で評価が異なったり、個々の農家の経験が中心となっているため、同じ栽培を行っても再現性に乏しいという問題があった。有機農法の科学的根拠を調べてみると案外分かっていない部分も多く、植物生育に対する有機物の作用や効果に関しては、定量的に解明されているとは言いがたい現状にある。

 そこで、有機物の何が、なぜ作物にとっていいのかを明らかにし、有機農法と(化学肥料を用いた)従来の農法との根本的な違い、だれでも有機農法ができるように有機物施用の根拠をはっきりさせたいと考えた。有機肥料の何がよいかを突き止めるために作物の必須元素である窒素のうち、有機態窒素の最小単位であるアミノ酸に着目した。化学肥料は、アンモニアや硝酸といった無機態の窒素からできている。これまでの植物栄養学も、植物は生育に不可欠な栄養である窒素をアンモニアや硝酸といった無機態の形で吸収する、と主に考えられていた。しかし、本当に有機態の窒素のままでは吸収されないのだろうか?もし、有機態であるアミノ酸の形で吸収されることが証明できれば、有機農法の長所もはっきりするのでは、と考えたのが今回の研究の狙いだった。

リアルタイムイメージングシステムで観察したイネにアミノ酸が取り込まれる様子
(提供:二瓶直登 氏)

 実験の結果、チンゲンサイではアミノ酸の種類によって、無機態の窒素より生育を早めたり、逆に阻害したりすることが観察された。大豆は、アミノ酸の違いによる生育への影響にそれほど差はみられない。いずれにしろ、アミノ酸でも植物は生育することが明らかになり、作物によっては無機の窒素肥料より生育がよくなるアミノ酸があることも分かった。また、中西友子・東京大学大学院農学生命科学研究科教授らが開発した放射性同位元素14Cを用いたリアルタイムイメージングシステムで、植物が実際にアミノ酸を吸収する様子を画像で確かめることもできた。

 これからの方向としては、効率的なアミノ酸組成の有機肥料、アミノ酸を効率よく吸収する作物、効率的にアミノ酸を利用する施肥法の研究を進め、効率的な有機農業を確立することを目指したい。

 われわれのような地方の試験場では、放射性同位元素を用いた研究などはできない。今回の研究では、大学で開発した技術で現場の問題をうまく解決できたのではないかと思う。今後とも農学と農業の橋渡しとなるような研究ができればと考えている。

福島県農業総合センター 作物園芸部畑作科 主任研究員 二瓶直登 氏
二瓶直登 氏

二瓶直登 氏プロフィール
1971年生まれ、96年東北大学農学部卒、98年東北大学大学院農学研究科修了、福島県農業試験場研究員、06年から現職。03年から東京大学大学院農学生命科学科の社会人博士課程で研究活動も。研究テーマは大豆、麦の品種選定試験、施肥を中心とした栽培試験。07年12月、「有機肥料の有機態窒素を中心とした有効成分の解析」の業績で、科学技術政策研究所の「ナイスステップな研究者2007」の13人の一人に選ばれた。

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