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社会の安全に欠かせない科学技術

米科学振興協会(AAAS) 科学技術安全保障政策センター上級顧問 ノーマン・ニューライター 氏

掲載日:2012年2月6日

シンポジウム「社会の安全保障と科学技術」(2011年12月8日、科学技術振興機構 主催)特別講演から

米科学振興協会(AAAS) 科学技術安全保障政策センター上級顧問 ノーマン・ニューライター 氏

ノーマン・ニューライター 氏

 

米国は9.11(2001年9月11日)を機に大きく変わった。この日の1週間後の9月18日と、10月9日に非常に致死量の高い炭疽(たんそ)菌の入った手紙が2波に分かれて送られる事件が起きた。上院議員とジャーナリストが狙われ、5人が亡くなった。犯人は政府職員の科学者だったが、逮捕前に自殺してしまい、確実なことは分からない。しかし、こうした事件によって、米国はテロ攻撃に対して脆弱(ぜいじゃく)な国だという意識が高まった。オープンさが失われ、違う国のようになってしまったようだ。生活のすべてにおいてセキュリティが気になる、という…。

日本では、オウム真理教による地下鉄サリン事件も犯罪行為と見られており、テロ行為とは見られていない。しかし、彼らの計画が成功していたら数千人規模の死者が出ていたかも知れず、大型のテロ事件と変わりない。今回の地震と津波についても、日本の皆さんは「仕方がない。運命なんだ」と受け入れているように思える。しかし、救助、治療そして復興といったことをやらなければならないのは、自然災害もテロ攻撃に遭ったのと基本的には同じだ。

9.11の1週間以内に連邦議会が愛国者法を通過させた。それまでFBI(連邦捜査局)と諜報機関であるCIA(中央情報局)は法律で協力することを禁じられていた。実際、CIAは9.11の情報を持っていたが、情報を提供するのは違法だったわけだ。愛国者法は両者の協力を可能にし、警察の権限は強まり、市民に対してより多くのことができるようになった。この法律は市民の自由を阻害するということで論議があり、4年後にはなくなるといわれていたのだが、まだ効力を保っている。

またブッシュ政権は、9.11から1カ月もしないうちにホワイトハウス内に国土安全保障局をつくった。その1年後の2002年11月には国土安全保障省が設立された。22の機関が一元化され、国防総省、退役軍人局に続いて3番目に大きな省庁となった。21万6,000人もの職員が働いている。副長官をトップにした科学技術関係のユニットがつくられ、一番上級の位置を占めている。

このほかにも9.11後に認知度を上げた組織が二つある。一つはホワイトハウスの科学技術政策局で、もう一つがアカデミーだ。科学アカデミー、工学アカデミー、医学アカデミーの3つが、ナショナルアカデミーズという名のグループをつくったのだ。アカデミーは通常、政府の資金で活動しているが、ナショナルアカデミーズは自分たちの資金を使いテロ関係の科学技術委員会をつくった。160人以上が参加し、7カ月かけて報告書をまとめ、「われわれの国家をより安全にする」(Making the Nation Safer)というタイトルの本も出版した。さまざまな攻撃、脅威、エネルギーシステム、運輸システム、インフラを挙げて、「これら全てに脆弱性があり、いかなる災害にも対策を練らなければならない」と書いてある。

国土安全保障省の中でも、科学は大きな役割を担っている。最初に、大学ベースの科学者のリンクをつくった。アカデミーの中だけではなく、大学ベースで、というのが非常に重要だ。いくつかの大学が一緒になったセンター・オブ・エクセレンスというコンソーシアムが全米に12ある。例えばメリーランド大学を中心に5大学からなる社会科学のセンター・オブ・エクセレンスは、テロリズムへの対応といった非常に有益な調査結果を出している。もし日本がセキュリティの研究費をもっと増やしたいということであれば、大学ベースのコンソーシアムというのがよいアイデアかもしれない。

もう一つ重要な文書としては、2011年3月にホワイトハウスが出したPPD-8という大統領政策指令がある。今までの26の公式文書を束ねたもので、1940年代にさかのぼる文書も含まれている。目的は、自然災害、テロ攻撃から通常の事故、サイバーアタック、パンデミック、こういった大きな事件・事故に対して国家として備えるシステムをつくっておくということだ。これは連邦政府、州政府、それ以外の地方自治体、また民間企業、NPOそして一般市民全部がかかわるものとなっている。また、この文書は行動を呼びかけている。これこれの備えをいつまでにするといったタイムラインも入っている。この目標に向けてどこまで進捗があったかを、年に一度大統領に報告することになっている。

脅威にはさまざまなものがあるが、核兵器や核物質はやはり米国では非常に懸念されている。濃縮ウランやプルトニウムがテロリストの手に渡ると、爆弾という形になるかもしれない。パキスタンはどうか、北朝鮮はどうか。イランは25%濃縮ウランを65キロ持っているといわれている。

生物兵器も大きな脅威だ。バイオセンス、バイオシールド、バイオウオッチというプログラムが用意されている。600億ドルを投じたプロジェクトで、バイオウオッチというのはセンサー、バイオシールドというのは天然痘や炭疽(たんそ)菌に対して備えるワクチンの購入だ。しかし、心配が消えたわけではない。合成生物学者であれば、こういったウイルスをつくり上げることができる。インフルエンザのウイルスを加工して非常に強力な致死的なウイルスをつくる能力を持つ生物学者はいる。

もう一つ、サイバー攻撃も憂慮されている。米国の軍部もこれに注目している。特に重要インフラにサイバー攻撃があれば、それは戦争行為に当たると見ている。実際に米国では毎日数千台ものコンピューターがサイバー攻撃にさらされている。シャットダウンに近づいたような状況も実はあった。私は日本でもこれは非常に大きな関心事になっていると認識している。

自然災害でもこれらのテロ攻撃に遭った場合でも、同じ用語が使える。予防、準備、対応、復旧だ。備えの中心になるのはレジリアンス(回復力)で、重要なインフラを強くしておき、抵抗力を高め、回復力を高めることが重要だと思う。

米科学振興協会(AAAS) 科学技術安全保障政策センター上級顧問 ノーマン・ニューライター 氏
ノーマン・ニューライター 氏
(Norman.Neureiter)

ノーマン・ニューライター(Norman.Neureiter)氏プロフィール
1957年米ノースウエスタン大学で有機化学の博士号を取得。1960年代には、全米科学財団(NSF)で日米科学協力プログラムの立ち上げに従事した後、在ドイツ米国大使館科学担当駐在官代理、在ポーランド米国大使館ポーランド・ハンガリー・チェコスロバキア科学担当駐在官、米大統領科学技術顧問国際問題担当補佐官を歴任。1970年代から90年代にかけては、テキサス・インスツルメンツ社で数々の管理職を務め、1989-94年テキサス・インスツルメンツ・アジア(東京)の副社長。2000年初代米国国務省科学技術顧問。04年米科学振興協会(AAAS)の科学技術安全保障政策センター(CSTSP)所長を経て、現在、同センター上級顧問。

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