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とてもぜいたくな本だ。「種の起源」や「進化論」で有名なチャールズ・ダーウィンの生誕200周年に当たる2009年、日本学術会議は公開講演会を開いた。さまざまな専門分野の研究者がいろいろな角度からダーウィンの業績とダーウィンが与えた多方面にわたる影響を解説した。その時の著名な講演者と司会者10人が、あらためてダーウィンの偉大さを分かりやすく紹介してくれている。
「生き残るのは最も強い種でも最も賢い種でもない。変化に最も適応できる種である」。評者もあちこちで目や耳にした“ダーウィンの言”だ。いいつもりで孫引きもしたこともあるこの言葉をダーウィン自身は言っていない、と知って驚く。世に広まっているこうした誤解を含め、ダーウィンがその後、社会にさまざまな影響を与え、現在でも多くの人々の関心を集めているかが、よく分かる。
「ビーグル号航海中に南米の地質を調査し、アンデス山脈のでき方をいろいろ考えた。サンゴ礁の形成を研究して著作も出している」(矢島道子氏)、「精神の働きを、情動の表出という観点から考察可能と捉え、表出の仕方に共通原理を打ち立てようとした」(小川眞里子氏)などなど…。ダーウィンの研究業績が地質学の分野や生物学の最先端の研究など広い範囲にわたっていることにも、驚く読者は多いのではないだろうか。
「遺伝の実体については、当時は何も分かっていなかったにもかかわらず、自然淘汰の理論は正しかった。ダーウィンが手がけた研究のうち当時は存在していなかったが、今では個別の学問分野に発展したものに、遺伝学、発生学、生態学、行動学、人類学、心理学などがある。ダーウィンはそのすべてを視野に入れていた」
筆者の一人である長谷川眞理子氏の文中の言葉が、読み終えると一層、腑(ふ)に落ちるだろう。