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「未来共創イノベーション」のあり方探りJSTシンポジウム

科学技術振興機構 サイエンスポータル編集部

掲載日:2016年2月2日

「未来共創イノベーション-ネットワーク型研究所の挑戦」をテーマにしたシンポジウムが1月27日、科学技術振興機構(JST)が主催して東京都渋谷区の国連大学・国際会議場で開かれた。JSTは昨年10月に設立20周年を迎えた。新年度からは社会・産業が望む新たな価値創造を目指す新規事業「未来社会創造事業」も本格的に始動する。こうした時期に企画されたこのシンポジウムは「CREST」「さきがけ」「ERATO」など戦略的創造研究推進事業の取り組みを振り返り、新しい時代に対応できるイノベーション研究のあり方を探るのが狙い。(「未来共創イノベーションの創出に向けた戦略的な研究開発のあり方」と題したパネル討論でのやり取りなどを紹介する)

社会の変容に対応できるJSTに

シンポジウムの冒頭、主催者を代表してJSTの濵口道成理事長があいさつを兼ね、今後JSTが果たすべき役割や今回のシンポジウムの意義などについて語った。この中で濵口理事長は、SDGs(持続可能な開発目標)への貢献や社会の変容に対応できるイノベーション事業改革の重要性などを強調した。発言の要旨は以下の通り。

「JSTは昨年10月に設立20周年を迎えた。この20年は国内外激動の時代だった。JSTが発足した年に科学技術基本計画がスタートし、JSTは計画に沿った科学技術政策実施の中核的機関の役目を担ってきた。イノベーションの推進、科学技術外交、震災復興など科学技術の成果をいかに社会につなぐか、希望の持てる国づくりや明日の科学者を育てるにはどうしたらよいか。そうしたことに知恵を絞り事業を進めてきた。一方で時代とともに社会は変容し、科学技術に求められる役割も大きく変化している。急速な少子高齢化が進む日本ではJSTがこれまで実施してきた優れた科学者へのファンディングだけではこの複合的な状況を解決する糸口は見い出せない。海外に目を向けると国連では2015年に30年に達成すべきSDGsが採択された。17項目のゴールが設定されているが、それを解決するためには科学技術をおいてない。科学技術の役割は大きく変わりつつあるがSDGsを見ると日本は決して世界のトップレベルでない。評価では18番目だ。(17項目には)いろいろな課題があり、深刻化しているものもある。JSTにとってこうした問題にどう対応するかは重要な課題になっている」

「JSTへの期待の大きさを感じている。昨年『濵口プラン』(JST構造改革のための濵口理事長主導の提案)を出し、その一弾としてこの『未来社会創造事業』を開始することになった。『戦略的創造研究推進事業』を時代の変革に先行する形で改革したいと思っている。そのためには現状をよく認識して今後20年の戦略創造研究の役割について議論をするためにこのシンポジウムが企画された。議論を深め私たちへのご指導、ご鞭撻をいただきたい」

写真1 シンポジウム冒頭あいさつを兼ねて発言する JSTの濵口道成理事長
写真1 シンポジウム冒頭あいさつを兼ねて発言する JSTの濵口道成理事長

この日のシンポジウムは基調講演、講演とパネル討論会で構成された。

基調講演は物質・材料研究機構の橋本和仁理事長が「公的研究開発費による戦略的な研究開発のあり方について」、スウェーデン・イノベーションシステム庁プログラム・マネージャーのダニエル・レンクランツ氏が「Challenge- Driven innovatiou in Sweden」、島津製作所の飯田順子シニアマネージャーが「企業の事業戦略とサイエンスに基づくアカデミアによる技術イノベーション」とそれぞれ題して基調講演した。

また東京大学大学院医学系研究科の間野博行教授(国立がん研究センター研究所所長)が「戦略事業がもたらしたがん医療革新」、東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の細野秀雄教授が「戦略的な基礎研究の課題と期待:材料研究の立場から」とそれぞれ題して講演した。どの基調講演、講演もこれまでの戦略的創造研究推進事業との関わりや研究開発の貴重な経験からJSTの利点やこれからの事業の課題について忌たんのない指摘や注文が続いた。

写真2 講演した東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の細野秀雄教授
写真2 講演した東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の細野秀雄教授

JSTの今後果たす役割について討論

この後、登壇者によるパネル討論「未来共創イノベーションの創出に向けた戦略的な研究開発のあり方」が行われた。はじめにモデレーターを務める大阪大学の小林傳司理事・副学長がこの日の基調講演や講演の主な発言などを引用しながら討論の論点や新たなイノベーションを探る上での論点などについて解説した。

小林氏はまずこのパネル討論の目的が「JSTの過去20年の取り組みとこれまで果たしてきた機能を振り返り、今後果たすべき役割について議論すること」と明示し、「事前の皆さんへのインタビューによると、研究が社会に還元され、社会に意味のある研究をすることがJSTにとって大事だということでほぼ共通していた」と紹介した。

基礎研究と応用研究について議論する上で参考になる整理の仕方として米国の研究者ドナルド・ストークス氏が1990年代後半に提唱した「パスツールの象限」のモデルを説明。自然の根本的なことを理解するための感覚が強いかどうかと社会のために使う配慮を考えているかについて「YES」「NO」の組み合わせで「純粋な応用研究(発明家エジソン型)」「現実の解決に応用可能な基礎研究(生化学者パスツール型)」「純粋な基礎研究(理論物理学者ボ-ア型)」などに分類できることをスライドを使って紹介した。さらにJSTは「現実の解決に応用可能な基礎研究」の観点が多いとし、一概に基礎研究といっても目的がある基礎研究と真理探究型基礎研究と区別した方がよい、などと指摘した。その上で以下のように論点をまとめた。

「最近ではトランス・ディシプナリーということばをよく使う。また科学技術をひとつのエンタープライズとしてみる考え方がある。研究のことを話す時に研究費と研究者と研究装置を考えるが実は研究というのはひとつのエンタープライズとして見るべきだということだ。航空会社の運航をパイロットと燃料と機体だけで議論したら絶対うまくいかないように科学研究もたくさんの要素を組み込んだひとつの実業体ととらえることができる。どういう政策的、戦略的目標を立てるかは難しいという議論が今日出てきた。時間軸をどう設定するか、従来のキャッチアップ型からフロントランナー型になった時に問題設定をどう立てるか、(科学技術のユーザーである)顧客が求める付加価値が変わってきた時にどうやってそれを把握して課題設定をするか、社会的な課題の発見と同定を誰の責任でやるかについて研究のマネージメント側がやるべきだ、という議論があった」

「研究のマネージメント側がどういうレベルで問題を立て研究チームがどう自分のものとして取り組むかの問題については、『チャレンジ・ドリブン・イノベーション』とか『オープンイノベーション』という問題意識が出てきている。社会的課題を考えてそれを「知識のユーザー」という観点で研究に巻き込むという研究スタイルがある。日本ではJSTがやっているが環境問題や医療の問題から出てきた考え方だ。JSTではRISTEX(社会技術研究開発センター)がこういうタイプの研究領域を設定していて研究者だけではなくその研究の社会的課題に関わっている人も巻き込んでやるということを15年、20年やっている。研究資金の配分機関、ファンディング機関がどういうことを考えなくてはいけないか、ということについても個人型研究向けと、チーム型研究向けではやり方が変わる。課題の提示方法もトップダウン、ボトムアップをどういう風にバランスを取るかの課題がある。また時期と内容に合ったファンディングは言うは易しでなかなか難しい」

「固定された研究チームの中でも多様性が大事で、研究者はチームの中だけで育つのだけなく(別の研究チーム間の)横の関係で育つという指摘があったがこれはたいへん大事なことだ。違うところで同じようなことをやっている人間をネットワークで学ぶのはとても重要だ。研究はパイロットだけでなく、テクニーシャンや知財処理とかアウトリーチに関わるような人材はイノベーション型の研究で大事になっている。こうした人材をどう整えてキャリアパスを作るかはファンディング機関にとって大事だ。評価の問題は永遠の課題だ。イノベーション型の研究で『打率』を高く設定するとイノベ―ティブなものは生まれないという指摘も出ている。ステージゲート方式が良いという議論もあったがそれだけでいいのかという議論もある。知財戦略では企業との関わりをどうするかという問題も出ている。これらはJST単独で解けることではないが、広い幅の問題群があるということが(これまでの講演で)明らかになったと思う」

写真3 パネル討論のモデレーターを務めた大阪大学の小林傳司理事・副学長
写真3 パネル討論のモデレーターを務めた大阪大学の小林傳司理事・副学長

「基礎と応用を区分することに意味はあるか」

パネル討論には基調講演、講演をした物質・材料研究機構の橋本和仁氏、島津製作所の飯田順子氏、東京大学の間野博行氏、東京工業大学の細野秀雄氏のほか、協和発酵キリン元社長の松田譲氏、京都工芸繊維大学副学長の吉本昌広氏、JSTから理事の白木澤佳子氏の3人も加わった。

討論の冒頭小林氏が「JSTは社会的課題に対してややトップダウン的な観点から戦略的に推進し、その結果を社会に実装、反映することが重要なミッションだと思うがどういう課題を設定するかについては非常に様々なレベルがある」などと指摘した。

松田氏は「現在、COI(センター・オブ・イノベーション)プロジェクトを担当している。少子高齢化先進国として持続性をどう確保するかというような大きなテーマの中でやっている。10年後15年後に日本がどうなっているか、こうなってほしい、という社会を描き出し、そういう社会を実現するにはどういう課題を設定して取り組まなければならないかというバックキャスティング方式でやっている。しかしあまりに大きいテーマでどう具体的課題に落とし込んでいくかは難しい。ある製品やサービスを開発したら解決できるという問題ではない」と述べ、現在全国7拠点を設け、各拠点のリーダーには企業や企業出身者で進めていることを紹介。「成果は社会実装されて初めて評価される。本気になって参加してもらい『一つ屋根』の拠点でやるのがプロジェクトの特徴で、社会科学系の人にも参加してもらい企業の人も入れ替わり自由だ。そういう形で課題設定している」と自らの経験事例を基に説明した。

次に吉本氏は「われわれもCOIに参加しているが大学の教員がどういう形で参加できるかがかぎになる。基礎、応用から開発研究と並んでいるが基礎と応用の間に、応用研究の前段階と後段階があって後段階には生産技術があり、前段階はかなり研究要素もあるが大学の教員から見ると必ずしも自分のやっている研究ではないという考えが出てくる。基礎研究から応用研究の前段に入った時に教員は苦しんでいる。そこを乗り越えると次のものが出てくると思う。研究者は基本的に古巣、基礎研究に戻りたくなる習性がある」と指摘した。

写真4 「未来共創イノベーションの創出に向けた戦略的な研究開発のあり方」と題したパネル討論会
写真4 「未来共創イノベーションの創出に向けた戦略的な研究開発のあり方」と題したパネル討論会

細野氏は「基礎と応用を分けること自体どうでもいいことで(その研究が)さ末か本質かの違いだけだ。基礎研究と重箱の隅、応用研究とレベルの低い研究は紙一重だ」「歴史を忘れたのではないかと思う。量子論は鉄鋼の溶鉱炉の温度測定から出た。現実的な努力の中から研究のネタが出ている。基礎、応用というが日本は学問を輸入し、自分で作っていないから最初から基礎、応用に分かれている。だが実は基礎、応用が分かれていないところが一番学問として面白い。そういうことを忘れてはいないか。混とんとしているところが学問として面白いところだ。基礎、応用と細かく分けすぎているのではないか」と直截な発言で問題提起した。

間野氏も「私がいる世界は医学なので近未来に薬になるかならないかで基礎と応用とを分けることができるかもしれないが、(医学は)基本的には病気の成り立ちを理解して病気の患者を救うというシンプルなものだ。個人のモチベーションとして、がんの患者を救いたい、自分もがんになるかもしれない(から研究をしたい)。実際に基礎研究と言われていることもやっているし、患者のネットワークづくりなどもやっている。医学研究については基礎と応用の区別はないと思う」。そして「JSTの最大のメリットはある程度の予算があり、若手の研究者がそれを使って育ち盛りの時に自分を試すことができることだ。優秀な人が次に行けるチャンスを与えられることだ。JSTがここから手を引いたら日本の研究は弱まる」と強調した。

社会実装へ研究の好循環を

これを受けてJSTの白木澤氏は「『さきがけ』は研究総括が責任をもって若手をひとりひとり育てる気持ちでやってくれている。異分野の研究者が集まる機会はあまりないのでこれからこうした事業は続けていきたい」と語った。

写真5 パネル討論に参加した左から吉本昌弘氏、間野博行氏、飯田順子氏、細野秀雄氏、松田譲氏
写真5 パネル討論に参加した左から吉本昌弘氏、間野博行氏、飯田順子氏、細野秀雄氏、松田譲氏

討論は次に「社会的課題は誰が設定するのか」などについてやり取りが進んだ。間野氏は「現在は何人かのアドバイザーが大事な領域を想定、それぞれの領域で課題を設定しているが、研究者の要望を聞くならば、セレクトした研究者にアンケートする手もあるだろう。最近の募集課題は広く包含する内容を設定するテーマが多いようだが、募集テーマは明確なテーマの方がよいのではないか。(具体的なテーマだと)集まった人も刺激し合って互いにライバルになる」。細野氏は「私も研究者だが(課題設定を)研究者に任せてはいけない。研究者はそういう動きをする人種ではない。日本はどこの領域で勝つかとか、といった問題は研究者コミュニティからは出てこない。研究者は利害関係者そのものだ。かと言って政治のレベルだけで決めるのもよくない。役所の2時間の議論では出てこない。JSTのCRDS(研究開発戦略センター)のメンバーが泊りがけでやっているように時間無制限で議論してへとへとになって初めて(課題が)出てくる」と語った。

討論も終盤に入り吉本氏は「結局(いい)人材を見つけることに尽きる。いい人材が育てば基礎と応用の循環は彼らのプロジェクトの中で続いていく」。松田氏は「研究は思うように進まないものだ。意外な出口が出てきたり、研究のゴールが見えくると新たなテーマが派生したり、研究を進めるとまた原点に立ち返るといった循環も生まれる」などと発言。小林氏は「大学の博士課程が空洞化して久しい。日本の研究にとってゆゆしきことで博士課程はほとんど定員割れしている。深刻な問題だ」とし、研究者の雇用期間や雇用の流動性の問題なども考える必要性を指摘した。

最後に小林氏からJSTに対する注文について問われると「人材が重要で『さきがけ』の果たす役割は大きい。好循環を生んでいるので継続発展させてほしい」(吉本氏)「医学研究はAMED(日本医療研究開発機構)に移っているがJSTでも(何らかの形で)メディカルサイエンスの分野で研究テーマを採用してほしい」(間野氏)などのコメントがあった。

写真 6 パネル討論に参加したJSTの白木澤佳子理事(左)
写真 6 パネル討論に参加したJSTの白木澤佳子理事(左)

こうした指摘や注文に白木澤氏は「『さきがけ』は若手にまとまった資金を良いタイミングに与えて独り立ちしてもらうのが目的なのでこれからも拡充していきたい。医学についてもAMEDとJSTの間のエアポケットに落ちる研究がないようにしたい。産学連携の話も出たがシーズとニーズが出会う場も大事にしていきたい」などと回答。さらに「来年度から未来社会創造事業という新しい事業を始める。これは失敗する確率が高いかもしれないが成功したらインパクトがあるテーマを取り上げる。評価指標についても文部科学省と検討しているが、研究の結果だけでなくプロセスも含めて評価する指標の在り方も考えていきたい」などと締めくくって討論を終えた。

(科学技術振興機構 サイエンスポータル編集部)

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