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理工系人材に期待するサービス産業

2008.12.08

 産業技術総合研究所主催のシンポジウム「サービス・イノベーション人材:科学技術関係人材の新たなフロンティア」が5日、都内で開かれた。個人の経験と勘に頼ることが多く、結果として生産性の伸び率が製造業に比べ低いサービス産業のイノベーションを担う人材育成がテーマだ。

 川越市で多様な自動車運送事業を展開する「イーグルバス株式会社」の代表取締役、谷島賢 氏と、全国に百店舗を展開している外食産業「がんこフード株式会社」の新村猛 氏が基調講演を行った。

 サービス産業の置かれた状況を端的に示すと思われる数字が新村 氏から紹介された。「厚生労働省2004年賃金構造基本統計報告書」の中の「産業別の労働条件」を示した表である。

 飲食業の労働条件として次のような数字が出ている。(平均)年齢38.9、月給27万6千円、賞与(年)36万6千円。情報通信業(35.9、39万1千円、130万3千円)、金融・保険業(40.3、38万9千円、136万3千円)といった好条件の産業に比べ大きな差があることが分かる。全産業平均の年齢40.4、月給33万円、賞与(年)89万1千円と比べても、飲食業に従事する人たちの収入は明らかに低い。

 新村 氏によると、外食産業は冷凍・冷蔵技術、高速道路など交通手段の発達による大量のストック、供給が可能になった1960年代以降に発展したが、基本的には個人の技術者の勘と経験に頼る構造から依然、脱し切れていないというのが全体的な状況のようだ。

 谷島 氏が語るイーグルバスの取り組みからも、バス業界が生産性を上げるのにいかに苦労しているかが分かる。同社は、旅行会社から出発したので、すぐには観光バス事業に進出できなかった。福祉施設を対象にした送迎バス事業、続いて一般企業対象の送迎バス事業を経て、観光バス事業を始めたのは、会社設立の10年後。路線バス進出はさらに後の2003年、路線バス規制緩和が実施された翌年だった。福祉バスの経験、ノウハウを生かし、既存のバス会社ではなかなかできない障害者対応の観光バス、障害者タクシー事業などにも手を広げている。

 利用者数の減少に加え、構造的な問題点を抱える路線バス事業を維持するためのダイヤ改善など、多角的な展開を図る中でそれぞれさまざまな工夫、改善を行っていることが報告された。

 新村 氏の報告も、各メニューの製造に要する時間と注文を受けてからの対応について一目で分かるデータ作成や、現場の作業価値とコスト最適化の試みなど先進的、意欲的な取り組みが紹介された。

 新村 氏によると「サービス業こそ工学的・科学的アプローチによって飛躍的に生産性を上げる可能性が大きい業種」で、「外食産業は、食文化を商品とする。単に国内産業のイノベーションのみではなく、海外への事業展開・輸出も視野に入れるべきである」という。

 氏は、理系人材が活躍し得る場としてサービス産業を次のようにアピールしていた。

 サービス産業は「即時性」「多様性」という要素をはらんでおり、学術的な裏付けに加えて「判断力」「演繹志向」「実行力」という人材を求めている。こうした資質を持つ人材を集めるため、サービス産業界は「目標・ビジョン」を見せるべきだが、工学系・科学系の人材も新たな視点でサービス産業をとらえてほしい。

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