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【コラム】「一家に1枚」 アプリやトランプにも広がる「元素周期表」

2024.01.15

 学習資料「一家に1枚」は2005年、「元素周期表」から始まった。身の回りの物質はすべて元素でできており、周期表は“科学の扉”を開く格好の教材となる。16年には理化学研究所のグループが発見した113番の元素が「ニホニウム」と命名され、新たに周期表に加わった。自然科学分野の日本のノーベル賞受賞者25人もポスターを彩る中で、元素周期表を基にアプリケーションやカードゲームが開発されるなど活用の幅が広がっている。

クイズ形式でインタラクティブな授業を目指す

 筑波大学附属駒場中学校・高等学校(東京都世田谷区)の理科教諭で理学博士の今和泉卓也さんは、情報通信技術(ICT)を用いた探究型授業の一環として「周期表アプリケーション」を制作し、授業で活用している。2015年ごろから教育現場に電子黒板が本格的に導入されたのを機に、「これまでの延長線上ではない、ICTを使ったインタラクティブな面白い授業ができないだろうか」と考え、中学2年生が理科の授業で習う周期表を題材に選んだ。

 そこで利用したのが、一家に1枚「元素周期表」ポスターだ。今和泉さんは「各元素が何に使われているのかが描かれ、子どもにもイメージしやすい」とその利点を挙げ、このポスターを「元素ごとに切り取ってカード状にすればゲームになる」と発想。各元素を一つ一つ切り出して電子黒板にランダムに表示させるなどして、元素記号の周期表上の正しい位置や手書き表記などを問うクイズ形式の授業を考案した。

電子黒板に周期表クイズを表示し回答タイムを競う初期の授業風景(今和泉卓也さん提供)

生徒とともに「周期表アプリ」を作成

 その後、多くの学校現場で利用できるよう、アンドロイド端末などで使える周期表アプリを生徒とともに作成し、イオンや原子核まで深く学べるコンテンツに仕上げた。現在では生徒一人一人にタブレット端末が整備されており、端末で自主学習することも可能だ。チームごとに回答タイムを競うゲームを取り入れた授業に生徒は大盛り上がりで、楽しく学んでいることが分かる。

 今和泉さんは、「元素周期表は『水兵リーベ僕の船…』とただ順番に暗記するのではなく、2次元のマトリックス(表)として触れて味わってほしい。『習うより慣れよ』ではないが、ゲームを通して生徒が少しでも周期表に親しんでくれたら」との思いで、授業にさまざまな工夫を凝らす。

カードゲームで遊びながら学べる

 一方、「元素周期表」ポスターを企画・制作した化学同人(京都市)は、元素と素粒子が描かれたカードゲーム「えれめんトランプ」を発売している。洛星中学校・高等学校(同市)の物理教諭、田中淳さんが考案したもので、周期表ポスターと連携する形で生まれた。元素や素粒子の美しいイラストとともに、その特徴が記されている。最新の「えれめんトランプ2.0」ではニホニウムを含む全118元素を取り扱う。

 場札のカードと「同じ族」か「同じ周期」のカードを順番に出し、早く手札がなくなれば勝ちとするカードゲーム「UNO」のような基本的なプレイ方法に加え、強いカードを出して勝ち抜けを競う大富豪(大貧民)ゲーム「元素富豪」など、遊びながら自然と元素や周期表に触れられると人気だ。「元素周期表」ポスターの企画者の一人でもある京都薬科大学の桜井弘名誉教授は「カードゲームで遊び、並行して周期表に親しみを覚えると、元素への興味と知識が深まってその関心が持続するようだ。もはや元素暗記法は必要ないかもしれない」と評している。

「えれめんトランプ」は子どもたちに大人気だ(化学同人/元素周期表同好会 提供)

「リビングで科学の話をしてほしい」

 第一弾となった「一家に1枚 周期表」ポスターは、豊田理化学研究所(愛知県長久手市)所長である京都大学の玉尾皓平名誉教授が2003年に提唱し、「美しく、かつ豊富な情報を含んだ周期表を各家庭の居間に飾り、親子で科学の話をしてほしい」との思いで発案した。それから毎年製作されてきた「一家に1枚」シリーズは計19枚となり、24年に20周年を迎える。

 現在ではポスター形式だけでなく、特設サイトや解説動画が加わり、さらに英語版も公開されるなど、日本発の科学コンテンツとして世界に発信する大きな役割を担う。新しい元素の発見やノーベル賞受賞者の肖像の追加などで「元素周期表」は第13版まで改訂が重ねられてきた。サイエンスポスターに“完成”はなく、日々進化する研究に合わせて今後も塗り替えられていく。

第13版まで版を重ねた「元素周期表」ポスター(文部科学省「科学技術週間『一家に1枚』シリーズ」サイトより)

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